研究課題/領域番号 |
26380601
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
福川 裕徳 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (80315217)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 監査法人 / ネットワーク / パートナー / 職業的懐疑心 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、①平成26年度に実施した予備的な分析の結果を更新して、その結果の解釈を行うとともに、②監査パートナーの諸属性が、監査対象となっていない開示情報に与える影響を分析した。 ①に関する研究においては、まずデータのアップデートを行った。平成26年度の研究では2011年度までを対象としていたが、これを2012年度まで拡張することにより、分析結果の一般性を高めることを試みた。そこでは、裁量的アクルーアルを用いて測定された監査パートナー個人の保守性(職業的懐疑心)は、2005年以前までは監査チーム内の他のパートナーの影響を受けているのに対して、2006年度以降はそうした影響は見られないという従前の結果を補強する結果が得られている。また、2006年度の分析対象監査法人内の人的ネットワークの変化の原因に関して、2005年に発覚したカネボウ事件とそれに伴う当時の大手監査法人に対する処分の影響、当該監査法人内で自発的に導入したパートナーローテーションの影響、2000年の合併後一定期間が経過したことにより生じた自然現象という3つの観点からの検討・解釈を行った。 ②に関する研究においては、各監査パートナーの属性として、テニュア年数(当該監査クライアントを何年監査し続けているか)と過去一定期間の担当監査クライアント数という2つの要因を取り上げ、それらの要因が、企業が開示するリスク情報にどのような影響を与えるかを分析した。既存研究に基づいて、①テニュア年数が短い場合には監査パートナーは保守的となり、その結果として監査クライアントにできるだけ多くの情報を開始させる、②担当監査クライアント数が多いほど、監査パートナーの(業界・その他の企業についての)知識は豊富になり、その結果、より多くの情報を開示させる、という2つの仮説を導出し、基本的にそれらを支持する分析結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27 年度には、主として、ネットワーク分析の結果明らかとなる監査法人内の人的ネットワ ークの諸特徴と、監査業務の結果として実現される監査の質との関係性についての実証的な分析を行うことを計画していたが、ほぼ計画通りに研究を進めることができた。特に、利益マネジメント(裁量的アクルーアル)に関する先行研究に基づき、各監査パートナーの保守性(職業的懐疑心)を測定し、一定の条件のもとでそれが監査法人内の人的ネットワークの影響を受けることを示す分析結果が得られたこと、および監査パートナーの諸属性(テニュア年数および担当監査クライアント数)によって、当該パートナーが提供するサービスの質に影響することが見出されたことは、現時点までの進捗として満足のいくものであるといえる。さらに、後者の研究については、分析結果に基づいて英文での論文を執筆し、現在、会計分野で高く評価されているジャーナルに投稿して審査を受けている段階である。その審査は第4ラウンドの最終段階にある。 また、時の経過に伴うデータの更新についても作業は順調に進んでいる。市販のデータベースはあるとしても、各企業の監査を担当している監査パートナーそれぞれについて名寄せをし、分析に適したデータセットを構築するには相当の時間を要する。この作業も平成28年度中には順調に行うことができた。 さらに、まだ論文の形にする段階には至っていないものの、ゴーイング・コンサーン問題に関連して監査報告書で提供される情報を収集・整理し、この情報に対して、監査パートナーの人的ネットワーク内での位置づけや諸属性がどのような影響を与えるのかについての予備的分析を進めることもできた。特に、2009年度に監査人のゴーイング・コンサーン問題への関与のあり方に関する大きな制度変更があり、これが興味深い研究課題を分析するのに適したセッティングを提供していることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度に当たるため、研究を完了させるため研究業績(論文)の執筆・公表に重点を置く。ただし、まず最初の作業としては、データのアップデートを行う。2016年3月期までのデータが8月頃には入手可能となるため、そこから2ヶ月ほどをかけて最新のデータセットを構築する。それと平行して、現在ジャーナルに投稿中の論文の修正、新たな論文の執筆および国際学会等への投稿を行う。 より具体的には、第1に、平成27年度までに行ってきた2つの主要な研究の統合を図る。これまでの研究では、監査パートナーの監査法人内での人的ネットワークの位置づけと、監査人の諸属性(テニュア年数や担当監査クライアント数)との関係については十分に検討できていない。両者を独立に捉えることも可能ではあるが、その間には何らかの内生性があることも十分に考えられる。両者を理論的・実証的に関係づけることができれば、既存の監査研究に対しても大きな貢献となると考えられる。 第2に、ゴーイング・コンサーン問題に関連して監査報告書で提供される情報に対する分析結果に基づいて論文を執筆する。この情報は、企業が公表する情報の中でも最もクリティカルな情報の1つであり、これまでにも多くの監査研究が行われている。しかし、この情報が、監査パートナー個人の影響を受けるのか、さらに当該監査パートナーの所属監査法人内での位置づけによって影響を受けるのかといった点についてはほとんど明らかにされていない。さらに、わが国においては、2009年の制度改正により、この問題に対する監査人の関与の仕方(開示対象の範囲)が変わっている。このことにより、同様の制度を有する他の先進諸国では扱えない研究課題を分析することがわが国では可能となっている。これに関する論文を執筆し次第、国際学会等に投稿し、そこで発表する。その後、国際ジャーナルに投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に予定していた、分析に必要なデータの購入を平成27年度に繰り越したことが第1の理由である。当初は各年度にデータを購入することを予定していたが、平成27年度に過去2年分のデータをまとめて購入するほうが、価格が安いことが判明したため、平成26年度にはデータを購入せず、その分を平成27年度に繰り越していた。平成27年度にはデータを購入したが、平成27年度に購入に充てることを当初予定していた金額ほどかからなかった。 第2に、平成27年度は、研究成果を学会において報告するよりも、執筆した論文を国際ジャーナルに投稿・掲載することに注力した。その結果として、海外出張のための旅費が当初予定していたほどかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には、分析に用いる2015年度(2016年3月期まで)のデータを購入する。また、ゴーイング・コンサーン問題に関するデータを含め、対象とするデータが拡がったことにより、その整理に相当の時間を要することが予想されるため、大学院生を雇用してデータの整理を行う。 さらに、平成28年度は最終年度であるため、海外での学会に積極的に参加して成果報告を行う。したがって、海外旅費が当初予定よりも大幅にかかることになる。さらに、英文での論文執筆にあたり、英文校正費も予定を上回ることとなる。
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