平成28年度は、平成27年度までの分析結果を受けて、企業が公表するリスク情報に対する監査パートナーの影響について検討した。具体的には、制度上、公認会計士の監査の対象とはなっていない有価証券報告書の「事業等のリスク」において開示されている定性的なリスク情報に着目し、その開示の量および質が、監査パートナーの知識および関与年数によって影響を受けるかどうかを検証した。その結果、監査パートナーの知識が豊富であるほど、企業は量・質ともにより充実したリスク情報を開示していることが明らかになった。また、監査パートナーの関与年数が短いほど、より充実したリスク情報を開示することも明らかとなった。このことは、監査パートナーは、関与年数が短いほど保守的であり、「新鮮な目」を監査にもたらしている可能性があることを示唆している。さらに、こうした監査パートナーの影響は、大手監査法人よりも、それ以外の監査法人においてより顕著であることも明らかになった。これは、大手監査法人の品質管理体制がより有効であることに起因しているものと考えられる。 これらの結果は、監査対象となっていない開示情報に対しても監査人の影響が見られること、そしてその影響は、監査パートナー個人レベルの属性によって異なっていることを示している。 全体として本研究は、監査パートナー個人レベルでの諸属性が監査の品質に対してどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としている。特に、監査法人内に形成されている監査パートナーの人的なネットワーク、その知識、経験が監査の品質に対して与える影響を検証しようとしてきた。その結果、ある監査パートナーが実現する監査の質は、その監査パートナーと監査チームを同じくする他の監査パートナーが提供する監査の質によって影響を受けるとともに、その個人の知識や経験によっても影響を受けることが明らかとなった。
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