研究課題
本研究の目的は、日本ではなぜ会計基準のコンバージェンス(国際的統一)が慎重に進められているのかを客観的なデータや証言を用いて分析することである。平成27年度は、主として、会計専門家の判断特性および会計基準の並存化を題材にして、欧米諸国とは異なる「日本の固有性」を検証した。具体的に、リース会計基準を用いて、日本の(公認)会計士の判断特性を検証した。その結果、(1)原則(フル・ペイアウト)に賛同する会計士はリース取引の資本化を推奨する傾向にあるが、ガイダンス(概ね90%)に賛同する会計士はリース取引の資本化を推奨しない傾向にあること、(2)厳格なガイダンス(概ね88%)に賛同する会計士はリース取引の資本化を推奨する傾向にあるが、厳格なガイダンスは原則に比べて資本化推奨能力に劣ること、(3)日本の会計士はリース取引の資本化を回避しようとする経営者のインセンティブ(負債比率の)の高低にかかわらず、バイアスの少ない判断を行う傾向にあることが明らかとなった。日本では国際財務報告基準(IFRS)にみられるような原則主義的な会計基準の(過度の)適用に対して懸念が表明されてきたが、リース取引の資本化に関しては、むしろ原則のガイダンスに対する優位性が確認されたことになる。また、日本ではなぜ少なくとも6つの会計基準(日本基準、IFRS、米国基準、修正国際基準(JMIS)、中小指針、中小指針)が並存するに至ったのかを、JMIS策定の経緯などに触れながら検証した。分析の結果、いわゆる連単分離方式を前提とし、IFRSへの迅速な対応が図られたために、連結財務諸表と個別財務諸表との乖離だけでなく、金融商品取引法と会社法、財務報告と課税所得計算、大企業と中小企業の会計の分化が促進され、このことが会計基準の並存化をもたらした一因となっていることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、雑誌論文を8編公表し、学会報告を4回行うことができたため。
次年度は、実験会計学の手法を用いて日本の会計専門家の判断力・倫理観の特性を引き続き分析する予定である。また、日本と欧米では公正価値会計の適用に巡って乖離が存在するので、日本では公正価値会計を巡っていかなる議論がなされてきたいのかまとめる予定である。同時に、研究成果を、ヨーロッパ会計学会などで報告する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
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