本研究の目的は、日本ではなぜ会計基準のコンバージェンス(国際的統一)が慎重に進められているのかを、内外の会計基準、アンケート調査結果、証言などを用いて分析することである。平成29年度は、主として、大企業と中小企業におけるリース利用実態と会計処理の差異を調査するとともに、日本の会計専門家の判断特性を検証した。 具体的に、中小企業のリース利用実態は大企業と比べてなにが相違しているのかを調査したうえで、中小企業会計のあり方を検討した。分析の結果、中小企業は大企業に比べて自社の資金状況により購入かリースかを決める傾向にあること、リースを重要な資金調達手段と捉える傾向にあることがわかった。また、中小企業は所有権移転外ファイナンスリース取引の会計処理として賃貸借処理を選好する傾向にあることがわかった。これらは、国際財務報告基準(IFRS)の影響を直接的・間接的に受ける大企業向けの会計とその影響を極力、緩和させようとする中小企業向けの会計の分化が進んでいる可能性を示唆するものである。 また、会計実務のコンバージェンスに関連づけながら、日本の会計専門家(公認会計士)の倫理特性や判断特性を検証した。その結果、会計士は外部(クライアント)からの圧力の影響のみならず、内部(パートナー)からの圧力の影響を受ける可能性があることが明らかにされた。あわせて、会計士の倫理観や判断力は、専門家意識や組織に対する愛着・義務感を醸成させるような教育訓練によって向上することが明らかにされた。
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