研究課題
本研究の目的は,会計情報の認識対開示について理論的・実証的研究を行い,貸借対照表を重視する会計モデルの特性を明らかにすることである。平成28年度は,まず,金融商品の公正価値会計を素材として,貸借対照表を重視する会計モデルが経営者や利害関係者に及ぼす影響について理論的に検討した。国際会計基準39号の改訂過程で,銀行業界への影響を考慮して,欧州連合は国際会計基準審議会(IASB)の会計基準設定プロセスに様々な政治的関与を行った。とりわけ,金融危機が深刻化する中で,欧州の金融機関に競争上不利にならないよう求められ,金融資産の再分類を要求する欧州委員会の政治的圧力が強かったので,IASBは,金融資産の再分類を認めざるを得なかった。このように,財務諸表本体で損失の認識を回避するため金融資産の再分類が求められ,財務諸表本体での認識と注記での開示との差異は経営者に大きな影響を及ぼすのである。次に,ファイナンス・リース取引に焦点を当て,認識と開示の差異が会計情報の有用性に及ぼす影響について実証分析を行った。債務市場において,社債市場参加者と格付機関がファイナンス・リース取引の認識と開示の差異をどのように捉えているのかについて検証した。社債スプレッドを用いた場合,財務諸表本体で認識されるファイナンス・リース債務と注記で開示されるファイナンス・リース債務との間でリスク関連性に差異が観察されることを明らかにした。他方,格付を用いた場合,認識と開示の間で会計情報の有用性に差異は観察されなかった。これらの結果は,社債市場参加者と格付機関との間で情報処理プロセスが異なることを示唆する。この研究成果については,現在,海外の査読付雑誌に投稿中である。このように,本研究は,認識対開示に関する理論的・実証的分析によって,貸借対照表を重視する会計モデルのインプリケーションを抽出した。
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企業会計
巻: 69(2) ページ: 37-45
Journal of International Accounting, Auditing and Taxation
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