研究課題
外務省外交史料館等が所蔵する南洋群島(ミクロネシア)関係政策資料を活用して、甘蔗等農産物資源の開拓という視点から、南洋興発株式会社の製糖生産原価管理と、南洋庁に代表される同地統治機構による予算管理の関係を、共進化ダイナミズムのフレームを通じて分析することが本研究の基本構想である。平成29年度は、南洋興発株式会社の製糖生産原価に関する資料の分析結果を学術研究のかたちにまとめ、当該論文を国際学会にて報告した。南洋興発は,南洋庁が制定した糖業規則をもとに,あらかじめ定められた等級別の価格標準に基づき,小作人等から甘蔗を買収すると同時に,小作料を徴収していた。製糖費の大半を占める原料費を抑制し,同事業からもたらされる利益を確保するため,甘蔗買収の価格標準はかなり低廉な水準に管理されていた。1934年の史料による限り,甘蔗買収価格は,等級別に1,000斤当り1等2.5円,2等2.2円,3等1.9円と定められていた。小作人に対する抑制された対価を「事後的に」修正するために,南洋興発は,小作人に対し,同社利益分配の一環として割増奨励金を支払った。上記の甘蔗関連費をめぐっては,小作人と南洋興発との間に頻繁に労働争議が生じていた。小作人の潜在的な不満を警戒していた拓務省は,南洋興発と小作人との利益分配の妥当性を持続的にモニターする必要性に迫られていたと考えられる。南洋興発は,親会社である東洋拓殖を通じて,拓務省に毎期決算に関する書類(決算書および主要項目内訳明細)を提出していたが,そこでは,製糖業に関する情報,とくに同社と小作人の利益分配に関する,甘蔗代,割増奨励金,小作料,臨時割増金に関する情報が明記されていた。南洋興発の決算書類は,同社事業の中核であった製糖事業に関する,小作人との利害調整の手段ならびに監督官庁によるそのモニタリングの手段として機能していたと考えられる。
以下の論文を執筆し、学術雑誌に投稿中である。Sumi, Y. and Noguchi, M., Budgeting and Accounting of Japan’s Extraordinary Defense Corps for the Civil Administration of the South Sea Islands from 1914 to 1922.
すべて 2017
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)