研究課題/領域番号 |
26380609
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
音川 和久 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90295733)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ビッグデータ / 会計情報の有用性 |
研究実績の概要 |
投資家の立場から会計情報の有用性を検証してきた資本市場研究はいまや、会計利益と株式リターンまたは出来高の関連性を調査するだけにとどまらず、増大・多様化する会計情報や市場参加者、発達する情報技術など社会情勢の変化に伴って、その裾野を以下のように大きく広げている。1番目に、調査対象とされる会計情報は、損益計算書などの財務諸表において金額表示される定量的情報のみならず、財務諸表本体以外の箇所で開示される定性的情報にまで拡大されてきた。また、最近の研究は、会計情報の伝達プロセスが投資家の意思決定にもたらす影響を調査している。2番目に、資本市場が競争的であり、投資家の反応が均質的であるという前提のもとで、株式リターンや出来高といった尺度が調査対象とされてきた。しかし、投資家の間に存在する情報の非対称性を解消させることが会計ディスクロージャーの重要な役割であるという観点から、ビッド・アスク・スプレッドやデプスといった情報の非対称性を示す尺度も調査対象とされている。また、個人投資家や機関投資家など、特定の市場参加者グループの行動に焦点を当てた研究も行われている。3番目に、会計情報に対する資本市場の反応が極めて迅速であるという前提に立てば、会計情報が公表される時点またはそれ以前の期間における資本市場の動向に焦点を当てることになる。しかし、資本市場の情報効率性を必ずしも前提にせず、会計情報が公表された以後の期間の資本市場の動向を分析する研究も数多い。音川 (2016)では、(1)どのような会計情報を調査対象とするのか、(2)資本市場のどのような側面を調査対象とするのか、(3)会計情報と資本市場のどのような関係を調査対象とするのかという3つの視点から、これまでの資本市場研究を振り返りながら、今後の資本市場研究について展望している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から、資本市場研究を中心とする最近の文献をフォローアップし、先行研究を再整理する作業を行っていた。これに関しては、2015年9月に開催された日本会計研究学会第74回大会の統一論題において研究報告を行うとともに、その報告内容を要約した論文を執筆した。また、決算発表に対する投資家の反応を時間単位で正確に追跡する研究課題については、従来の30分ではなく10分、5分、1分といったより短い時間間隔で株価や出来高の動向を検証する分析を進めている。さらに、証券市場の価格形成が必ずしも効率的ではないことを示すアノマリー現象の原因を探求する研究課題については、M&Aを実施した企業の経営者やその企業をフォローする証券アナリストが公表した利益予想を分析し、M&Aが将来業績に与える影響について、その含意を正確に理解できているかどうかを分析している。以上の理由から、研究活動はおおむね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
決算発表に対する投資家の反応を時間単位で正確に追跡する研究課題については、分析単位の時間間隔を短縮することに加えて、調査対象とする決算発表の期間を2009年から2013年までの5年間に拡大することにより、分析結果の一般化を図る。また、証券市場の価格形成が必ずしも効率的でないことを示すアノマリー現象の原因を探求する研究課題については、M&Aのみならず設備投資や研究開発といった企業行動も分析の対象とし、そのような企業行動が将来業績に及ぼす影響を、経営者や証券アナリストが自身の利益予想に的確に織り込んでいるかどうかについての分析を進める。そして、実証分析の結果を研究会や学会などで報告するとともに、研究論文を執筆することにより、最終的な研究成果を取りまとめたい。
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