最終年度である平成28年度では、平成26年・27年度での文献調査・インタビュー調査での成果をふまえながら海外追加調査を行い、日本・中国・韓国の新造船事業の競争・採算性戦略に関して比較研究・分析・理論化を行い、当該結果を基礎として日本造船企業の競争優位・採算性改善のための方策と定式化の確立を目的として本研究を推進させた。 当該目的を達成するために、今日の日本の造船企業はESG(Environmental、Social、Governance:環境、社会、ガバナンス)の確立と経営戦略への取り込みの必要性が高いことがインタビュー調査の結果から判明している。たとえば、ESGのE(環境)に関して現在の造船企業は、新造船建造にあたってCO2(二酸化炭素)・NOx(窒素酸化物)・SOx(硫黄酸化物)の削減が国際規制などから強く要請されている。具体的には、IMO(International Maritime Organization;国際海事機関)は2016年1月1日より船舶から排出される大気汚染物質であるNOxの抑制のために排出規制を強化した。NOx排出規制強化の例からも理解できるように、造船企業各社は新造船建造に対する環境対応能力を高めなければ、受注面において国際競争力を保てなくなる。同様に船主(新造船の発注者)の船舶の省エネ性能(燃費経済性)に対する要求が高まり、造船企業各社は省エネ船建造に対する対応能力も高めなければ国際競争力を保てなくなる。 これらの点から、ESGのE(環境)では日本の造船産業全体で新造船建造に対する環境対応能力を向上させるという点が強調される必要がある。日本の造船企業の競争優位・採算性改善の問題に関わるESG問題への対応に関する研究成果として、日本企業経営学会第52回研究部会において「日本の造船企業におけるESG情報開示フレームワークの検討」の研究発表を行った。
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