研究課題/領域番号 |
26380615
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
村上 裕太郎 慶應義塾大学, 経営管理研究科, 准教授 (30434591)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 税務会計 / タックス・コンプライアンス / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、平成26年度に構築した理論モデルの海外学術誌への投稿準備と、理論モデルの仮定を検証するための新たな研究をおこなった。具体的に、LENのフレームワークをもとに構築したモデルに、経営者の脱税(あるいは租税回避)の程度を組み込んだが、その脱税がどのようなメカニズムにおいてなされるかを検証した。実験研究においては、被験者が理解できるようなシンプルな実験デザインが望ましいため、平成26年度に構築した理論モデルをそのまま用いることは難しい。そこで、理論モデルの一部(脱税行動)のみに焦点を当てることとした。実験の目的は、税率変化および相手プレイヤーに対する行動予想が、納税者のタックス・コンプライアンスに与える影響について考察することである。 本実験研究の主要な結論は以下の通りである。第1に、税率変化の経済的帰結について、税率が下がると、納税者のタックス・コンプライアンスの度合いは高まる。これは、モデルが予想するほど、納税者は調査官の行動を先読みせず、近視眼的な行動をとることを示唆している。第2に、相手プレイヤーの行動予想に関する経済的帰結について、相手がコンピュータであると告げられる「PC条件」よりも、相手が実際の人間であると告げられる「Human条件」のほうが、納税者のタックス・コンプライアンスの度合いはより高まった。これは、Human条件において、納税者が、「均衡行動から乖離する可能性のある限定合理的な経済主体」が相手であると認識した場合には、より保守的な申告行動を行うことを示唆している。 本研究成果を、アメリカ会計学会、日本会計研究学会、アジア太平洋会計学会等で報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、申請期間の2年目であるが、1年目に学会報告をした論文の海外学術誌投稿準備および1年目の理論モデルの一部を実験的に検証した。理論モデルの投稿に関しては、細かな計算や仮定の妥当性のチェックなど、まだ詰めなければならない項目があるため、最終年度には確実に投稿したい。また、新しい実験研究については、学会報告でのコメントをもとに、追加実験等をおこなっていく予定である。現在のところ、総じて本研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は申請3年目(最終年度)となるため、すでに投稿準備段階にある理論モデルと、2年目におこなった実験研究を海外査読付学術誌に投稿する予定である。また、1年目と2年目の研究プロセスで得られたアイデアをもとに、新たな理論モデルを構築し、その研究成果を各種セミナー(慶應義塾大学の「分析的会計研究会」や大阪学院大学の「税務行動研究会」等)、国内学会(日本会計研究学会等)、および国際学会(ヨーロッパ会計学会、アメリカ会計学会、アジア太平洋会計学会、アジア会計学会等)にて報告し、学会等で得られた有益な情報を論文に反映させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に海外出張費のための資金が不足したため、50万円の前倒し申請をおこなったが、校務のためその学会への参加が難しく中止した。平成27年度は、ほぼ従来の予定通り予算を消化した結果、26年度に前倒しした部分の一部が最終年に繰り越されることとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は最終年度であるが、年3回の海外学会報告および海外学術誌への投稿を予定している。さらに、これら学会報告および投稿に付随する論文の英文校閲費用等にも予算を使用する予定である。
|