本研究の目的は,組織行動に対する管理会計システムの影響機能を解明することである。そのために,平成26年度においては管理会計システムの影響機能に関する先行研究のレヴューを徹底的に行い,平成27年度には先行研究の成果を統合する理論的な分析モデルを構築した。その理論的な分析モデルをより現実的妥当性の高いものにリファインするために,平成28年度において企業実践をサーベイした。そのうえで当該年度においては,モデルを検証するために,東京証券取引所一部と二部上場の企業に対して郵送による質問票調査を実施した。 本年度は,上記の分析モデルが,獲得したデータにフィットするかどうかを検証するために,共分散構造分析を行った。その結果,第一に組織成員が行動の必要性を認識する際の基準となる会計的目標の難易度を一定程度高めの水準に設定すること,および第二に会計上の管理可能性を多少逸脱しても,組織成員が行動を生起させる際に想起する行動代替案の範囲を会計指標を通じて適度に意識させることにより,職務の遂行可能感(自己効力感),職務遂行の組織に対する貢献感(統制感),職務における自律感(自己決定感・集約的効力感)が促進されることが分かった。 また,上記の第一の要因と第二の要因は,会計目標に対する受容に対して,事前の想定とは反して,統計的に有意な正の影響は与えていなかった。しかし,それらの要因は,伝統的な管理可能性原則に従えば,むしろネガティブ影響を組織成員に対して与える危険性が高いと考えられるのにも関わらず,統計的に有意ではなかったとはいえ,正の影響を与えていたことは注目できる点であるといえよう。
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