2016年4月に「平成28年(2016年)熊本地震」が発生し、本研究と関係が強い適時情報開示の実務が観察された。災害の規模や社会的な意義の大きさを鑑み、当該地震における適時情報開示実務を本研究の対象に含めた。2017年度はこの研究成果をアメリカ会計学会およびヨーロッパ会計学会において報告し、欧米に向けた研究成果の発信を行った(いずれも査読付学会報告)。その具体的な内容は以下のとおりである。 同地震について、①開示が行われたタイミング、開示情報の内容、および開示企業の属性を記述し、②その適時開示情報が証券市場にどのような効果を与えたかに関するイベント・スタディを行った。地震発生から1週間に204件、2016年9月末までには297件の開示があり、開示情報を全体でみると正の証券市場反応が確認された。情報内容別に証券市場の反応を分析すると、被害がなかったことを報告するものと復旧を報告するものに対して証券市場は正の有意な反応を示すことが確認された。被害による業績への影響額を報告する開示に対して市場は負の反応を示したが、有意性は確認できなかった。影響額の開示は地震発生から最短で26日後にみられ、被災企業が業績への影響額を推計するには少なくとも約1ヶ月の時間を要することが示唆された。 開示の適時性の観点では、地震発生直後の開示に対して証券市場は正の反応を示しているが、重回帰分析では有意性を確認できなかった。これは証券市場は情報開示が早ければ良いということだけでなく、開示される情報の内容まで評価していることを示唆する。フィランソロピーに対しては有意な反応はみられなかった。ただし、分析結果を総合すれば、とくに被災地域の企業や事前から証券市場に注目されている企業が自然災害下で重大な被害が存在しないことを証券市場に表明することには意義があると考えられる。
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