研究課題/領域番号 |
26380622
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
野田 昭宏 滋賀大学, 経済学部, 教授 (40350235)
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研究分担者 |
阪 智香 関西学院大学, 商学部, 教授 (10309403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境会計 / 環境負債 / コーポレートガバナンス / 非財務情報 |
研究実績の概要 |
本研究は,経営者のコントロール・メカニズムに有用な会計報告制度の設計へ展開する基盤を確立するため,環境会計の意思決定誘導機能を解明することを目的とする。平成27年度に,環境会計報告における第三者検証に着眼して,当該検証の質が,環境会計報告において内生的に決定されるモデルを分析し,平成28年度は,環境会計報告において経営者の裁量行動の影響を分析した。並行して,平成26~28年度の成果の公表に取り組み,本年度は,論文報告1件,ワーキングペーパー1件,及び国際ジャーナル投稿2件(査読中),市民社会講座における成果紹介を実施した。具体的な成果は,下記の通りである。
本年度の分析においては,環境会計情報の外部報告における経営者の裁量行動に対する制約が,規制機関によって内生的に決定されるモデルを分析した。分析から,(1) 外部報告規制機関は,企業の環境経営活動を促進する観点から,会計情報の外部報告において虚偽報告を許容する政策を選好する,(2) 報告裁量行動を許容する規制環境の下で,経営者の環境経営へのインセンティブは強化され,良好な環境パフォーマンスが生じる,(3) 資本市場における価格反応は,報告裁量行動を許容する規制システムの下でより大きくなる,という結果を得た。
研究成果の公表への取組みの第1は,内生的に企業の外部報告における監査・第三者レビューの質が決定される過程を分析した結果をまとめたものである 。前年度に先行してジャーナル投稿した論文であり,本年度は引き続き審査結果を受けて改訂作業を実施した。第2は,上述のプリンシパル・エージェントモデルを導入した環境会計情報の外部報告を分析した結果をとりまとめた論文であり,日本会計研究学会における論題報告と,ワーキングペーパー発行,投稿を実施するとともに,一般市民向けの公開講座にて平易に解説した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,(1) 初年度(平成26年度)において,報告における裁量行動コストを所与として,企業の環境負荷にかかわる外部報告の裁量行動を解明し,(2) 第2年度(平成27年度)において,企業の外部報告における監査人の選択が,経営者によるコミットメント手段として内生的に決定されているメカニズムを解明した。
これらの成果をうけて,当年度は(平成28年度)は,企業の外部報告における裁量行動と経営者の外部報告にかかわるコミットメントを前提として,(1) 経営者がどのように環境負荷にかかわる経営政策を決定するか,(2) 経営者の環境負荷発生に関する実体的裁量的行動を考慮したとき,環境会計報告の規制水準はどのように決定されるべきかという課題にもとづいてモデル分析した。
モデル分析からは,会計情報の外部報告において裁量行動を許容する外部報告規制が,(1) 経営者の環境経営へのインセンティブを強化し,企業が発生させる環境負荷を抑制する効果をもたらす,(2) 投資者の環境会計情報利用を促進する,という主要な結果を得た。当該モデル分析は,従来の環境会計報告研究が,外部報告における環境会計報告の機能と内部経営者コントロール機能を別個に各側面に焦点を当てて調査してきたのとは対照的に,プリンシパル・エージェントモデルと合理的期待モデルを同時に考慮した点に特徴がある。両者が相互に影響を及ぼして,その機能を決定されていることを解明した点で顕著な成果を達成したと考えられる。これら成果は,環境負荷にかかわる会計報告規制をどのように設計するべきかについて理論的基礎を与えるものであり,本研究が当初計画していた研究課題を達成するものであった。以上の理由から,本研究は,概ね順調に進捗しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,モデル分析を精緻化して,平成26年~28年度において得られた結果の頑健性を確認するとともに,論文投稿等による研究成果の積極的な発信を実施する。当初計画していた3カ年(平成26~28年)のモデル分析は順調に推移し,期待される成果を得ることができた。
しかし,本研究の成果の国内外における学会報告を通じて,本研究の仮定するモデルが,環境負荷の発生に対して投資者選好の異質性を排除している点が,モデルの現実妥当性に疑問を生ずるものとして明らかになった。すなわち,企業の環境負荷がもつ経済的業績への影響にのみ関心をもつ投資者のみならず,経済的業績に関連しない環境負荷の発生に関心をもつ投資者の存在を考慮したとき,本研究の結果は必ずしも妥当ではない可能性があるという点である。
この指摘を考慮し,資本市場が環境負荷に関して異質の利得関数をもつ投資者の層から構成されている仮定を新たに導入し,分析結果の頑健性を確認することを研究方向として進めていく。この新しいモデルの拡張によって,分析を精緻化が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,当初計画した第2年度(平成27年)の英文校閲サービスの購入回数が予定より少なかったことと,海外における研究報告を中止したことによって使用しなかった金額が,当年度に持ち越されたことによる差異である。
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次年度使用額の使用計画 |
当初予定していたモデル分析を発展・精緻化し,その成果を国内外において報告するとともに,海外研究者との情報交換を行うための旅費と,成果公表(投稿)のための英文校閲及び投稿費用に使用する予定である。
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備考 |
企業の環境活動への取り組み事例を紹介するとともに,その内容を会計情報としてどのように測定しているかを平易に解説した。その中で,環境負債情報の開示が企業の環境負荷に係る経営決定にどのような影響を及ぼすか紹介した。
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