研究課題/領域番号 |
26380625
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松本 敏史 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90140095)
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研究分担者 |
徳賀 芳弘 京都大学, 経営学研究科, 教授 (70163970)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 公正価値 / 製造業 / 固定資産 / 稼得利益 / のれん |
研究実績の概要 |
国際会計基準や米国財務会計基準が1980年代以降次々に導入してきた新たな会計処理方法は,関連の資産・負債の公正価値(時価)の測定を前提とするものである(以下,公正価値会計)。本研究の目的は,公正価値会計が製造業に与える影響を分析することにあるが,その内容は次の2つに集約することができる。 ①会計情報は経営管理に不可欠の情報であり,製造業では「成果(収益)」と「努力(費用)」の測定に重点が置かれている。従来,収益は関連の収入,費用は関連の支出の期間配分計算によって測定されてきた。その特徴は経営者や従業員がコントロールできない市場価格の変動を利益(稼得利益)の計算から排除することにあった。しかし公正価値会計が導入されると,従来の利益計算が市場価格の変動に影響されることになる。それが経営の羅針盤である会計情報の有用性を高めるのか否か,ここに重要な論点がある。②製造業も資金調達のために資本市場に向けて会計情報を発信する。一方、投資家はその利益情報に基づいて将来キャッシュ・フローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算定してきた。これに対して国際会計基準委員会等が提唱してきた公正価値会計では、時価に基づいて計算される純資産(=資産-負債)が当該企業の企業価値を表すものと理解されている。この規定は資産・負債がすべて金融商品で構成されている企業には適合するが、製造業の場合はそう単純ではない。具体的にはのれん(超過収益の資本還元価値)の取り扱いが問題になる。現時点では、①の公正価値会計が生み出す情報価値についてはネガティブな評価を下しており、②の企業価値情報については、投資家よりも、企業を売買するファンドや、担保価値を知りたい銀行にとって有用な会計情報になっているのではないかという理解に至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)有形固定資産の会計を中心に、それと密接に関連する他の項目(開発費、無形資産など)を取り上げ、公正価値会計に内在する特性を明らかにし、そのうえで(2)公正価値会計がわが国の製造業に与える影響を種々の方面から分析することを目指している。このうち(1)については有形固定資産の公正価値評価を超えた分析を行ってきた。具体的には2つの企業価値測定方法(フロー・アプローチとストック・アプローチ)に対応する会計モデルを比較することで、現在の公正価値会計が資産・負債の公正価値測定による財政状態表示と、市場連動型稼得利益計算を組み合わせたハイブリッド会計(混合会計)の構造になっていることを明確にした。今後は、この枠組みの中で有形固定資産の公正価値評価の意味(機能)を分析していくことになる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本研究では公正価値会計がわが国の製造業に与える影響について、ヒアリングに基づく実態調査、ケース・スタディや設例を用いたシミュレーション分析を行い、公正価値会計に関する政策的インプリケーションを抽出したいと考えてきた。しかし現状において、公正価値会計が製造業にとって有益か否かを判断する明確な根拠がないのも事実である。またこの点について、論証・実証を経た知見の蓄積も乏しい。その現状と限界をふまえながら、本研究では改めて有形固定資産の再評価モデルに戻り、そこで求められる公正価値測定の構造とその特性が製造業に与える影響をシミュレートすることで、何らかのインプリケーションを得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度末に研究会を予定していたが、研究分担者、連携研究者との間で日程の調整ができず、開催を断念したため(当該研究会は2016年度4月に実施済み)。また、インタビューのための旅費や謝金の支出がなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
主としてこれまでの研究をまとめるための会議費や旅費、関連の国際学会に参加するための旅費、インタビューを行うための旅費や謝金に充当する予定である。
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