本年度は税負担削減行動というリスクを伴う行動が、資本市場においてどのように捉えられているかについて主に議論した。ウォールストリートを占拠せよ」事件や「パナマ文書」事件などにより税負担削減行動に対する社会的批判が注目を集めていることからわかるように、社会的に見れば、税負担削減行動ハイリスクを伴う行動である。ただその一方で、キャッシュアウトフローを減らすというリターンも確実にある。よって、リスクという側面が強ければ企業価値に対してマイナスであり、リターンの側面が強ければプラスという意味で、この活動が企業価値とどのような関係にあるかは明らかにない。そこで、税負担削減行動と企業価値の関係に関する米国の研究をレビューし、そこから日本企業の税負担削減行動に関するインプリケーションを導き出した。米国の研究では、(1)税負担削減行動は持続的であるものの、将来の収益力にはつながっていないかもしれないこと、(2)資本市場は税負担削減行動が持つ意味をきちんと把握しきれていないこと、(3)ガバナンスなどを整えることで税負担削減行動のリスクが減少していること、などが発見されていることを示した。その一方で、日本の研究でも税負担削減行動が将来キャッシュフローに関する情報を提供していることも分かってきた。ただ、日本において、税負担削減行動と企業価値との関係について研究蓄積はまだまだ少ないため、どのような活動ならば企業価値に正の影響があるか、あるいはリスクに影響があるのかなどは今後の検証課題であることがわかった。また加えて、企業の環境への対応というリスク活動が企業価値に与える影響についても考察し、広くリスクと企業価値の関係について考察した。
|