研究課題/領域番号 |
26380633
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
坂口 順也 関西大学, 会計研究科, 教授 (10364689)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 組織間 / 契約 / 統治構造 / 原価管理 / 実証研究 |
研究実績の概要 |
本研究課題の初年度に当たる平成26年度では、欧米の組織間マネジメント・コントロール研究において中心的な検討課題とされている組織間での「契約」について、これがどのように記述され、かつ、検討されているのかを調査した。また、この調査では、組織間マネジメント・コントロール研究が蓄積される管理会計の領域だけでなく、これに隣接する経済学(取引コスト経済学)や経営学(戦略論、組織論、マーケティング論)などの他の領域の先行研究も対象に含めることとした。 その結果、欧米の組織間マネジメント・コントロール研究で記述される契約の内容が、規定や条項の多さに関連する「契約の範囲」(Anderson and Dekker, 2005; Dekker, 2008)から、取引相手との協働の促進に関連する「協力的な契約」(Krishnan et al., 2011)、契約における「期間の長さ」(Costello, 2013)、「契約の詳細さ」(Ding et al., 2013)など、契約の持つ様々な側面へと拡大していることを把握することができた。また、こうした傾向は、関連領域の先行研究でも見受けられること、すなわち、取引相手の機会主義的行動を縮減するためのものとして契約を捉えるだけでなく、取引相手との協力や環境変化への対応の基礎として契約を理解しようとしていること(Luo, 2002; Luo and Tan, 2003; Schepker et al., 2014)を、確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にもあるように、初年度に当たる平成26年度では、組織間における契約がどのように記述され、かつ、検討されているのかについて、管理会計領域の先行研究だけでなく、隣接する経済学や経営学の他の領域の先行研究を対象に含め、より包括的に調査した。その結果、欧米の組織間マネジメント・コントロール研究において記述されている契約の内容が様々な側面へ拡大していること、また、こうした傾向が関連領域の先行研究においても見受けられることを確認した。このように、初年度において包括的な文献調査に着手し、さらに、これを通じて先行研究の動向を把握したことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断することができる。 また、ここで確認した組織間での契約の内容やその多面的な性格は、わが国の管理会計の研究領域に多くの新たな知見を提供する可能性があると考えられる。すなわち、わが国の管理会計領域においては、とくに組織間での原価管理の実施に関連して、取引相手に対する目標設定や業績評価といった組織間での管理実務が幅広く検討されてきた。しかし、こうした管理実務の重要な基礎となる組織間での契約については、これまで十分に注意が払われてこなかったといえる。それゆえ、初年度で把握した組織間での契約内容やその多面的な性格(契約の範囲の広さ、契約の詳細さ、契約による協働促進や環境対応など)は、本研究課題の研究成果全体を支える重要な基礎になると予想される。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では、初年度に実施した先行研究の調査をふまえて、組織間での原価管理の実施と、統治構造にかかわる組織間での契約の設計との関連性について、先行研究をもとに検討する。先述のように、わが国の管理会計領域では、とくに組織間での原価管理に関連して、取引相手に対する目標設定(目標原価の設定など)や業績評価(目標原価の達成度の評価や目標とする品質・納期水準の達成度の評価など)、および、企業組織の壁を越えた取引相手とのインターラクション(相互支援や問題解決など)の実施といった管理実務が数多く記述されてきた(加登,1993, 1994; 木村, 2008; 窪田, 2001, 2012; 小林, 2004; 清水, 2000; 谷, 1996)。しかし、こうした管理実務の重要な基礎となる組織間での契約については、これまであまり注意が払われてこなかったといえる。それゆえ、次年度に当たる平成27年度では、初年度で把握した組織間での契約の多面的な性格を基礎に、契約と組織間原価管理の諸要因との関連性について整理することを目標とする。 なお、こうした目標の達成に向けて、次年度では、原価管理やサプライチェーン・マネジメントにかかわる先行研究の整理や、組織間での契約にかかわる先行研究の追加的な調査を実施することを計画している。また、次年度の調査で得られた関連性にかかわる想定は、最終年度で予定している質問票調査で利用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、本研究課題の取り組みの方向性にかかわる意見を得るために、海外の研究者との研究打ち合わせや、関連する研究についての意見交換をさらに実施することを計画し、具体的な日程調整を実施していた。しかし、残念ながら、先方の先生の都合により、海外の研究者への訪問が急きょ中止となってしまった。そのため、次年度使用額は25万円程度となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に当たる平成27年度では、計画していた海外の研究者との意見交換や関連する資料の収集を実現することを計画している。また、これにかかわって、次年度使用額25万円程度を使用する予定である。これにより、次年度使用額が適切に使用されるとともに、意見交換を経ることで本研究課題への一連の取り組みの妥当性が検証でき、かつ、具体的な資料調査を通じて本研究課題の目標達成が実現可能になると考えられる。
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