研究実績の概要 |
本研究課題の中間年度にあたる平成27年度では、前年度における組織間での契約の設計に加えて、組織間での原価管理の実施にかかわる文献について包括的に整理し、両者のつながりについて検討した。具体的には、まず、①組織間原価管理に関わる先行研究を概観し、次に、②組織間での契約と原価管理活動の実施のと関連性を検討した。 まず、①にかかわって、組織間原価管理に関する国内・海外の先行研究を幅広く調査した(Agndal and Nilsson, 2009; Cooper and Slagmulder, 2004; Mahama, 2006; Windolph and Moeller, 2012; 加登, 1993, 1994; 木村, 2003; 窪田, 2001, 2012; 小林, 2004; 清水, 2000; 園田, 1998; 谷, 1996など)。これにより、組織間での原価管理活動で実施されるSCM実務(目標の設定や達成度の評価など)についての記述は先行研究で多く見られる一方で、その基礎となる契約についての記述は限定的であることが明らかとなった。 また、②にかかわって、前年度の研究成果をふまえ、組織間での契約の設計と原価管理の実施との関連性を検討した。組織間での契約は、契約の範囲の広さ(Anderson and Dekker, 2005; Dekker, 2008)、協働志向の契約(Krishnan et al., 2011),契約期間の長さ(Costello, 2013)、契約の更新(Schloetzer, 2012)、事項の特定性(Ding et al., 2013)のように、多様な側面から構成されることが指摘されている。しかし、組織間での原価管理活動の実施に対して、それらの側面がどのような影響を与えているのかについては、十分に検討されていないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、前年度での取り組みに加えて、組織間原価管理にかかわる文献を包括的に調査し、現時点での研究の到達点や、取り組むべき課題について確認することができた。具体的には、国内での原価企画や組織間原価管理に関する研究(加登, 1993, 1994; 木村, 2003; 窪田, 2001, 2012; 小林, 2004; 清水, 2000; 園田, 1998; 谷, 1996など)、および、海外でのオープンブック会計や組織間原価管理に関する研究(Agndal and Nilsson, 2009; Cooper and Slagmulder, 2004; Mahama, 2006; Windolph and Moeller, 2012など)を概観し、これらの多くが、組織間の原価管理活動で実施されるSCM実務(目標の設定や達成度の評価など)に焦点を当てていることを確認する一方で、こうした原価管理の基礎となる契約についての記述は先行研究で限定的であることを明らかにした。さらに、前年度の研究成果をふまえて、組織間での契約の設計と原価管理の実施との関連性を検討するにあたり、取引相手の行動の制御を超えた組織間での契約の多様な側面を考慮することが必要であることを確認した。 なお、これらは、先行研究に沿って、組織間での統治構造と原価管理の関連性を実証的に検討するための基礎になると考えられる。それゆえ、本研究はおおむね順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度にあたる平成28年度では、これまでの研究成果や入手したデータを基礎として、組織間での契約の設計と原価管理活動の実施との関連性について実証的に検討することを計画している。 先行研究によると、組織間での契約は、取引相手の行動を制御するといった側面以外にも、組織間での多様な情報の共有や非公式なやり取りを促進するといった側面を有することが指摘されてきた(Anderson and Dekker, 2005; Costello, 2013; Dekker, 2008; Ding et al., 2013; Krishnan et al., 2011; Schloetzer, 2012など)。しかし、こうした多様な側面を持つ組織間での契約が、組織間での原価管理実務の実施にどのような影響を与えているのかについては、現在のところ十分に明らかにされているとはいえない。それゆえ、平成28年度では、先行研究を基礎に、取引の特徴(資産特殊性、不確実性、取引規模など)をコントロールした上で、契約の諸側面が組織間での原価管理活動(目標の設定や達成度の評価など)の実施に対して与える影響を詳細に検討する予定である。 なお、検討にあたり、先行研究(Dekker et al., 2013; Poppo and Zenger, 2002)で示唆された両者の補完的な関係、すなわち、綿密で詳細な契約を組織間で設計できていれば、その後に実施される組織間での原価管理活動が盛んになるという関連性を起点とすることを想定している。
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