本年度は、まず、前年度に引き続き、財務情報の比較可能性をテーマとした研究に焦点を当て、先行研究では、どのように比較可能性が尺度化され、分析に用いられているのかに関する議論を整理した。具体的には、財務情報の比較可能性は概念フレームワークの質的特性に依拠していることから、概念上、①会計基準や会計処理方法の画一性が高まることにより改善されるという見解と、むしろ②企業に会計処理方法を選択する自由を与えるほうが、企業の経済的実態を反映することができるという2つの異なる見解があることを確認した。そして、このことが、比較可能性の尺度に多様性をもたらす要因となることを指摘した。その上で、会計基準や会計処理の画一性などインプットベースの比較可能性の尺度と、会計情報システムなどのアウトプットベースの比較可能性の尺度を整理した。 次に、本研究の主たる目的は、財務情報の比較可能性について、その時系列動向を調査することであるから、会計システムに基づくアウトプットベースの尺度を用いて分析を行った。前年度までに整理したデータを更新し、最終年度である本年度は、わが国企業に関して、2008年6月から2015年3月にかけて、四半期ベースでDe Franco et al. (2011)の尺度に基づき、比較可能性の時系列動向を調査した。その結果、2008年6月から2015年3月にかけて、財務情報の比較可能性は、改善傾向にあることが観察された。また、産業別の比較可能性にはかなりバラツキがあることが確認された。分析結果から、特に、鉄道、医療、陸運などの産業においては比較可能性が高いのに対して、電力、その他金融、不動産などでは、比較可能性が相対的に低いことが示された。電力において特に比較可能性が低いのは規制産業であることと関係があるのかもしれないが、産業別の時系列推移に着目すると、概ね改善傾向にあることが観察された。
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