研究課題/領域番号 |
26380644
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
祐成 保志 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (50382461)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ハウジング / 社会調査史 / 住宅政策 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ハウジングの社会学の主要なアプローチとして「社会心理学」「政治経済学」「エスノグラフィ」に着目し、社会調査史研究の立場からそれらの展開過程を明らかにすることである。平成26年度は1940~50年代の米国で形成された「社会心理学」的ハウジング研究を中心に検討した。その核となる資料は、R.K.マートンらによって執筆された未公刊の報告書『社会生活のパターン:ハウジングの社会学の探究』(Patterns of Social Life: Explorations in the Sociology of Housing)である。コロンビア大学の「R.K.マートン文書」(2010年公開)に保管されている同書の謄写版(1951年頃に作成されたもの)、およびセミナーの講義録、研究者等との書簡といった資料の読解を進めたところ、以下のことが分かった。(1)この研究が同時代の米国社会学において広く知られていたこと、(2)社会学にとどまらず建築・都市計画の専門家にも注目されていたこと、(3)後続の研究者のなかにも関心を示す者が少なくなかったこと。(3)に関して特筆すべきは、1980年代、住宅都市開発省(HUD)の研究部門に所属していたJ.ゲーリングによってPatterns of Social Lifeの公刊が計画され、編集作業がある程度進んだものの頓挫していたことである。米国のハウジング研究の特徴は、住宅政策・プログラムについてのエビデンスにもとづく評価を重視するところにあり、近年もMTO(Moving to Opportunity=機会獲得のための移住)のような大規模社会実験の検証に、ゲーリングをはじめとする社会学者が参加している。上記の公刊計画からは、Patterns of Social Lifeが、こうした研究の原点に位置づけられていたことがうかがえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに収集済みの資料の整理と読解はおおむね予定通り進んだ。7月のISA世界社会学会議横浜大会で知見の一部を報告し、海外の参加者から有益なコメントを得ることができた。2月には、コロンビア大学のマートン文書にて、1980年代の公刊計画に関連する書簡を中心に、補充の資料調査を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、英国を中心に形成された「政治経済学」と「エスノグラフィ」に重点を置く。前者については、J.ケメニーのHousing and Social Theory(1992年)の邦訳『ハウジングと福祉国家』(新曜社)を昨年12月に公刊した。同書は、新都市社会学(資源配分論)、政治学(国家論)、福祉社会学(レジーム論)を摂取してハウジングの社会学の射程を拡張し、ハウジング・レジームの国際比較に先鞭をつけた重要な著作である。後者については、地域社会における労働市場と住宅市場の関係を明らかにしたR.E.パールのDivisions of Labour(1984年)に着目する。ケメニーが示した理論枠組みは、2000年代の住宅市場危機を経て再評価されている。また、パールの分業論は近年のアセットベース型福祉論と接続することができる。前年度の研究成果も踏まえてハウジング研究がもちうる理論的・方法的意義を的確に把握するとともに、次年度に予定している日本の社会学・建築計画学の再検討も念頭に置きながら、日本におけるハウジングの現状と住宅政策の分析への応用の可能性を探る。
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