研究課題/領域番号 |
26380644
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
祐成 保志 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (50382461)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ハウジング研究 / メディア研究 / 実効的環境 |
研究実績の概要 |
米国の社会学におけるハウジング研究とメディア研究は、ほぼ時期を同じくして誕生した。それが単なる偶然にとどまらず、理論的・方法的な必然性のあるできごとであったことを、一定の根拠をもとに論じられるようになったことが、本年度の中心的な成果である。 R. K. マートンを中心とするコロンビア大学応用社会調査研究所(BASR)の社会学者・社会心理学者は、1940年代にハウジング研究に関わり、「計画的コミュニティ」(planned community)の生態について詳細なモノグラフを作成した。BASRは米国におけるメディア研究の拠点であり、マートンも『大衆説得』をはじめとする効果研究に従事していた。 この時期のメディア研究は、マスメディアが、受け手がもともともっている思考や行動のパターン(先有傾向)を補強する方向で影響をあたえることを明らかにした。受け手の側の条件を重視する立場は「限定効果論」と呼ばれる。当時のハウジング研究もまた、一種の効果研究を志向していたといえる。 マートンの後続世代に属するH.ガンズは、論文「可能的環境と実効的環境」(初出1958年)で、「建築・都市計画の限定効果論」というべき視点を提起している。ガンズは、メディア研究とハウジング研究を自覚的に架橋しようとした。彼が提起した「実効的環境」の概念は、ハウジング研究が取り組むべき理論的対象に位置付けることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は英国のハウジング研究に重点を移す予定であったが、前年度に引き続き米国の社会学的ハウジング研究に着目した。そのことで文献の読解と考察が進み、前述のように、ハウジング研究とメディア研究の具体的な接点が明らかになった。また、これまでの研究成果の一部を、欧州ハウジング研究ネットワーク(ENHR)のリスボン大会で報告したところ、参加者から有益なコメントが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ガンズの指摘した「実効的環境」と、欧州を中心に構築主義以降のハウジング研究のテーマとなった「home」の概念の共通点と相違点についての考察と並行して、日本の社会学・建築計画学におけるハウジング研究に着目する。直接の参照関係はなくとも、それらは英米のハウジングの社会学と関心を共有していた。前年度までの作業をふまえて、これらの調査研究を再検討することで、日本社会をフィールドとしたハウジングの社会学の可能性と課題について考察する。その際に鍵となるのは、戦時期には社会政策学、戦後初期には都市社会学において集中的に議論され、その後も何度か注目を集めながらも十分に発展させられなかった「生活構造」の概念である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度におこなう予定であった資料の電子テキスト化作業の一部を、研究の進捗にあわせて平成28年度に繰り越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の作業は平成28年度内におこなう。その他の内容を含めて、本研究課題は平成28年度に完了する見込みである。
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