最終年度は、住宅政策を普遍的な住まいの権利を保障する社会政策として再構築するための理論的な考察を行った。 現在の日本社会では、すべての人に政府が住宅を供給することや、あらゆる民間賃貸住宅の公営住宅化を目指すことは非現実的である。とりうるのは、テニュア(住宅の保有形態)によって生活費負担の有利不利が生じにくい制度、すなわち「テニュア中立」の制度を設計するという方策である。具体的には、「すべての人は誰かから住まいを借りている」という仮定を置き、公平に「住まいを借りる」ための保障を整えることで、テニュア中立に接近することができる。 ただし、居住は住宅の消費にとどまらない。この点は、医療と対比させることで明確になる。医療では、患者は医療従事者が提供するサービスを受け取る消費者の立場にとどまる。医療をモデルとして制度がつくられた分野では、サービスを提供する専門職が確立してきた。これに対し、住まいに関わるサービスは、さまざまな主体によって多様な方法で提供される。そのなかで大きな部分を占めるのが、居住者自身のセルフサービスである。居住とは、環境のなかのある部分を自らの住まいであると認識し、安心や快適を感じられる場として整え、そして、近隣をはじめとする他者との協力を通じて維持することである。それは、住宅という商品の、受動的で個別的な消費にとどまらない。環境に働きかける能動的な行為であり、世帯・世代をこえた住まいの共同的な生産でもある。そこで、「すべての人は自ら住まいをつくっている」という、もう一つの仮定を置く必要がある。 以上のような、「借りること」と「つくること」の両面の保障こそが普遍主義的な住宅政策の内実を形作るという視点は、本研究課題が全期間にわたって検討してきたハウジング研究の基本問題と、近年の日本の住宅政策における実践的な課題を照らし合わせることによって獲得されたものである。
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