本研究は、知の専門分化が進展する中で、特定の領域の専門家にとどまらず、非専門家である「公衆」に知的にアピールした「公共知識人」として評価されたニューヨーク知識人を研究対象とした。ここで対象とした知識人は、主にD・ベル、I・クリストル、N・グレイザー、I・ハウ、E・シルズ、R・ホフスタッターなどである。彼ら知識人たちが「公共知識人」になり得た知的背景について考察した。 ニューヨーク知識人としての彼ら自身の経験をもとに展開している知識人論を検討した。専門分化が進む現代社会において、「公共知識人」と評価されるに至る彼らの知的キャリアに関する議論を比較検討し、おおよその共通項を析出した。それは以下の4点にまとめることができる。①ユダヤ系移民の2世としての「共通の経験」をもっていた。②「大恐慌」の中で知識社会に身をおいていた。③ユダヤ系として「アメリカ社会からの疎外」を経験し、それゆえ強い「ユダヤ的アイデンティティ」を共有している。④政治的ラディカリズムと決別した経験をもっている。 彼らの知識人論をもとに、ニューヨーク知識人たちの理論・思想をその知的背景と関連づけて分析した。特に知的キャリアの初期に、シティ・カレッジ・オブ・ニューヨークのキャンパスに同時期に集っていたベル、グレイザー、ハウ、クリストル、リプセットらを中心に取り上げた。 最終年度の研究では、冷戦下におけるニューヨーク知識人の思想と行動について検討した。特にマッカーシズムをめぐる知識人たちの議論を比較検討し、マッカーシズム分析、マッカーシズムおよび共産主義に対する態度等について明らかにした。そこから知識人と社会・政治との関係のあり方を展望した。
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