本研究では、紛争後(ポストコンフリクト)国における社会関係資本を、アンケート調査やヒアリング調査を通じて実証的に分析した。2011年に実施したカンボジアでの調査(合計400サンプル)を改良したアンケート調査(合計250サンプル)を東ティモールにおいても実施し、両国の結果を比較するとによって、伝統的な社会関係資本と近代的な市民社会的な要素の実態を把握した。また、比較検討および両国におけるより詳細な追加調査を通じてカンボジアと東ティモールの相違点とそれに影響を与えた要因を分析し、より一般的な紛争後の社会変化のメカニズムについて分析した。 紛争後の国づくりの事例として取り上げられることの多いカンボジアと東ティモールを対比させて、単に数値の違いだけではなく、その違いのその背景にあるさまざまな要因について、より詳細な追加調査を通じて検討した。次のような点が特に重要な論点である。(1)家族・コミュニティ・政府行政といった異なるレベルでの「信頼度」の違いとその背景。(2)コミュニティとのつながり、土地問題への対処の方法、等の伝統的社会関係資本の実態。(3)住民のさまざまなリスク認識と政府行政への信頼度の程度。(4)近代化の波の具体的影響、「市民社会」的な社会関係資本の具体的な把握 最終年度には、関連研究者との国内での研究会および海外の研究者を含めた国際会議を通じて意見交換しコメントを得て最終的な結論をまとめた。研究成果のとりまとめにあたっては、類似する他の国のケースとも比較検討し、紛争後の社会関係資本の動態をより体系的な比較の観点から整理した。研究成果は、上記の国内研究会や海外国際会議での発表のほか、以下の著書の第1章および第2章としてとりまとめ公表した。稲田十一『社会調査からみる途上国開発-アジア6カ国の社会変容の実像』明石書店、2017年10月(全226頁、うち19-81頁)。
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