研究課題
本研究課題の2016年度は,昨年度から用意していた研究成果の発表を果たすことができた(「研究発表」欄参照).とくに今年度の研究成果として明らかになったのは,次の2点である.第1に,知覚の様相間の「相互浸透」とでも呼ぶべき現象である.すでに1940年代に,メルロ=ポンティが指摘したように,私たちは,聴覚的もしくは触覚的な質を,視覚的に捉えることがある(ガラスの硬さを見る,など).とくにこのような「複合感覚的知覚」のなかでも,「運動感覚の視覚」と呼ぶべき現象が見出せた.例えば,教授場面における,身体の動かし方の実演を見るとき,学習者は,単に身体の動きを視覚的に捉えるだけではなく,その身体の運きに運動感覚を直接捉える.「(自分の)身体の動かし方を見ること」は,相互行為の組織にとって決定的に重要な資源である.第2に,「複合感覚的知覚」が相互行為参加者自身にとって重要な資源であるならば,それは,同時に分析者にとっても,重要な分析資源となる.なぜならば,分析者は,確かに,ビデオを通して,音声および視覚資源にしかアクセスできないようにも思えるが,しかし実際には,それらを通して相互行為の触覚資源などにも直接アクセスできるからである.「複合感覚的知覚」は,重要な相互行為的現象であるとともに,重要な相互行為分析資源でもある.また,これと関連して,本年度は,とくに教授場面に特化した相互行為を計27例(計約20時間)集めることができた.教授場面に特化としたとはいえ,その内容は多岐にわたる.まとまった知見はまだ得られていないが,今後の研究の展開につながる,多くの分析的観察(身振りによる運動感覚の視覚化のプラクティス,発言の言語的意味と実演の視覚的意味の,同時並列・前後直列による相互彫琢のプラクティス,など)を得ることができた..
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Mind, Culture, and Activity
巻: 未定 ページ: 未定
10.1080/10749039.2017.1296465
岩上真珠・池岡義孝・大久保孝治編『変容する社会と社会学』
巻: 1 ページ: 101-123
Journal of Pragmatics
巻: 98 ページ: 18-35
10.1016/j.pragma.2016.04.004
Text & Talk
巻: 36 ページ: 757-787
10.1515/text-2016-0033
荒畑靖宏・山田圭一・古田哲也編『これからのウィトゲンシュタイン: 刷新と応用のための14篇』
巻: 1 ページ: 202-219