研究課題/領域番号 |
26380658
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中井 美樹 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (00241282)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 共分散行列 / ランダム行列理論 / カテゴリカル・データ / 社会学データ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年、社会科学研究の諸領域でその応用が進むランダム行列理論(Random Matrix Theory)を、社会学における社会調査データ分析に応用し、それによって変数間の相関構造についての新たな分析モデルに基づいた社会調査データ分析手法を提案することである。新たなモデルの応用から得た分析結果を従来の分析結果からの知見と比較することを通じて、より深い社会学的インプリケーションを導くことを目指している。 本プロジェクトの研究開始1年目の平成26年度には、とりわけ社会学領域での社会調査データではほとんどを占めるカテゴリカル・データ(名義、順序尺度)を含むデータセットを扱うための分析手法にランダム行列理論を拡張させることを試みた。それを従来の分析手法との比較において考察することでより深い社会学的考察が可能となることを示すことに取り組んだ。達成した主要な成果については、まず第一に、カテゴリカル変数と量的(連続)変数の連関を統一的なフレームから分析するアイデアを社会学的データセットの分析に適用した。これは新たな幾何学的手法を変数間の関連性の分析に適用する新たなアプローチといえる。従来、さまざまな連関指標が提案され用いられてきたが、それらは変数の特徴や固有の局面において使い分けられてきた。そのこと自体は意味があるが、統一的な見地から変数間の関連性について評価することを困難にさせてきた。本研究から得た新たな手法は、連続データ間についても、連続データとカテゴリカル・データ間およびカテゴリカル・データ間についても共分散の評価が可能となる手法であることを示した。 またこれと並行して、変数間の関連パターンを視覚化・可視化する手法について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標としては、カテゴリカル変数と連続変数の連関を統一的フレームから分析するアイデアを社会学的データセットの分析に適用することをあげていた。実績の概要でのべたように、今年度の研究では提案した新たなモデルを適用したデータ分析の精緻化を進めるとともに、従来の連関指標との比較からその手法の長所と限界を明確に示すことができた。さらに次年度以降の課題、具体的には、相関や連関のパターンを視覚化・可視化する手法の検討のための方針も得られており、これについては研究を既にスタートさせている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、当初の計画に沿って、大規模社会調査データセットの分析手法にランダム行列理論を拡張する方法についての研究を中心に推進する。この際、本研究の第二の課題である、欠損値を含むデータ(欠測データ、不完全データ)の問題に対処する頑健な手法を定式化する。具体的には第一に、従来の欠損値データの対処の手法や議論(R. J. A. Little, and D. B. Rubin. 2002. Statistical Analysis with Missing Data, 2nd ed. Wileyなど)についてまずレビューを行い、第二に、それらで提案されている諸手法(代入法・補完法)とランダム行列理論を応用した新たな手法に基づくデータ分析について比較しながら研究を進める。平成26年度に新たな手法を用いた際の分析では、現行で広く行われているリストワイズ削除によったが、この対処の問題は従来より指摘されている。そこで、本研究のアイデアが有効かどうかの検証という視点に重点を置きながら研究を進める。欠損値を含む社会学的データセットの分析に伴う課題の明確化と整理については、すでにH23~25年度の研究(基盤研究C)を進める過程でその課題を検討する必要性に気づき、若干の進展をみてきている。したがって本研究期間中には、研究協力者との議論を通じて具体的な最適の手法の提案に結びつける。第三に、これまで日本の全国調査データセットを分析に用いたが、平成27年度は利用可能な各国の社会調査データセットの分析に本研究の手法を適用する計画である。 第四に、平成26年度およびこれまでの研究成果を国際学会(2015年7月、ボローニャ)において発表することを予定している。成果の公表を通して、世界各国の専門家から有意義なフィードバックが得られることが期待でき、本研究を深化させる契機となると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、当初予定していたラップトップパソコンの購入を次年度に延ばし、既存のデータセット分析の精緻化に注力した。その点以外は、ほぼ予定通りに予算を執行した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度にはより多くの大規模データセットへの手法の応用のために高性能パソコンを購入する予定であるため、平成26年度未執行額は平成27年度に使用する予定である。それ以外については平成27年度も交付申請書の計画通りに予算を活用し研究を進める。欠損値データの最新の研究動向を検討するための文献を購入する。また「今年度の推進方策」に記載したとおり、イタリアでの国際学会で研究成果を発表する予定である。そのための旅費に研究費を使うことになる。その他にも、これまで進めてきた分析モデルをさらに応用するため引き続き海外の共同研究者の協力を得ながら研究を進めるため、年に数度の研究会を実施するための研究打ち合わせ旅費を計上している。
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