研究課題/領域番号 |
26380661
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
樽本 英樹 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50271705)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際社会学 / 国際移民 / 社会統合 / 労働移民 / 移民政策 / 食 |
研究実績の概要 |
初年度は次のように研究を遂行した。 第1に、近年展開している日本の労働力移入政策の概要とそのメカニズムを考察した。単純労働力導入の政策を展開している韓国や台湾と異なり、日本は公式には単純労働力を受け入れてはいない。しかし非公式には徐々にその間口を広げている。しかし社会統合を維持するためにその広げ方を国家は移民に期待する技能レベルによって変えている。まず、高度技能移民を引きつけるためにポイントシステムを設けたけれども、十分機能しているとは言えない。第2に、中程度の技能レベルの移民に対しては、経済連携協定 (EPA) で看護師・介護士候補の導入をもくろむと共に、和食がUNESCOにより無形文化財に指定されたことを契機に日本料理海外普及人材育成事業が始まった。低技能移民に対しては、技能実習生制度を徐々に拡大させている。すべての技能レベルに関しては、国家戦略特区の政策枠組みで外国人医師や外国人家政婦を導入しようとしている。このように国家は技能レベルに応じて政策を変え、労働移民の流れを規制しているのである。 第2に、国際移民を「旅」のひとつという観点からまとめた後、国際移民と社会統合を「食」の観点から考察した。フランス・パリを例にとると、先進諸国の他の都市と同様に多くの移民が集住している地区がある。ユダヤ系、アフリカ系、中国系、インド系の集住するどの地区にもそれぞれの集団に伝統的な「食」がある。この「食」は各集団のアイデンティティや社会統合を維持するために重要な役割を担っている。しかし同時にイスラム教徒移民に典型的に見られるように、「食」はマイノリティとマジョリティの境界を明確化し社会統合を危うくする契機も生み出す可能性がある。この考察によって、「食」が文化の中核であり、社会統合に大きく関連することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際移民の市民権と社会統合に関して、2つの側面に関する研究が遂行できたため、おおむね順調と判断される。 2つの側面のうちの第1は、移民フローに大きく関わる労働移民政策である。国家による政策が技能レベルによって移民を巧みに選別していることは、移民の市民権を制限しつつ社会統合を維持する試みであると理解することができた。 第2の側面は主に移民ストックに関わる移民文化の1つ、「食」である。「食」は第1の側面とは逆に移民の草の根的活動によって維持されている側面が強く、かつ社会統合に対して重要な機能を果たしていることを示すことができた。 このような進展はあったものの、市民権に関する理論的な考察は後回しになっている感が否めないため研究の進め方を若干補正する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、まず市民権の理論的考察を行うとしていたが、実際には日本の移民政策の展開およびフランスの移民の「食」といった事例を先に研究することになった。したがって、今後は本研究課題の全体像を見据えつつ、初年度に行うとしていた理論的考察に力を注いでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において研究発表を行う予定であった国際社会学会大会が日本国内(横浜)で行われ、旅費が計画よりも少なくて済んだためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、研究発表を行う予定の法社会学学会大会がブラジル・ポルトアレグレで開催されることになっており、ヨーロッパやアメリカにおける研究会議よりも多くの旅費がかかる予定である。そのため次年度使用額をあてる計画を持っている。
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