研究課題/領域番号 |
26380661
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
樽本 英樹 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50271705)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際移民 / 社会統合 / 排外主義 / 市民権 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、排外主義の観点から国際移民の社会統合問題にアプローチしていった。研究上の問いは以下のようなものである。エスニック排外主義はどのような特徴を持つのだろうか。なぜ生じるのだろうか。どのように解決できるのであろうか。 市民権論の視角から考察すると、市民権は制度として成立すると正反対のベクトルを持った2つの機能を果たす。第1に、「内」にいる人々に対しては包摂的になるという機能である。しかし第2に、「外」にいる人々に対して排除的に働く。現実には内部包摂性と外部排他性は入り組んでいく。外国人・移民はこの構造の中に編入させられるのである。 反外国人感情、外国人嫌悪、反移民的偏見、人種差別、ヘイトクライム、ヘイトスピーチなどエスニック排外主義は多様であるものの、共通性としてエスニック排外主義は市民権が包摂性を失い、排外性を維持または強化している状況と捉えられる。すなわち、エスニック排外主義は外国人・移民を市民性から排除する動きのことと理解できる。 エスニック排外主義の生起を説明する理論仮説として、接触モデル、社会変動モデル、競争脅威モデル、言説モデルなどが提唱されているけれども、市民権論はひとつの含意を与える。市民権は、地位・権利の社会契約的要素とアイデンティティの情緒的要素で構成されていた。両者が相互に言及し合って自己拘束的となり、社会統合を実現していたのである。大量の国際移民の登場によって、2つの要素間の関係が分離し、自己拘束的過程が崩れてしまった。これがエスニック排外主義が生起するひとつの説明となる。 以上のことから政策的含意として、エスニックに多様化した社会においても自己拘束性をもたらすような従来のタイプとは異なる市民権を模索することが重要であることがわかる。このような市民権が成立する条件を詰める作業が今後探究されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会統合が不安定になる現象として国際移民をめぐる排外主義に着目できたこと、さらには市民権論の観点から排外主義の生起メカニズムを考察し提示できたことは研究が順調に推移している理由となる。もちろん、排外主義の緩和または廃絶のための政策的提言までには至っていないけれども、これについては来年度以降の課題として遂行することが可能だと理解される。
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今後の研究の推進方策 |
上記で記述したように、エスニック排外主義の緩和や廃絶のための市民権構築に至るメカニズムを構築し、政策提言までつなげることが今後の研究の大きな目標である。また、確かにエスニック排外主義は国際移民に伴う社会統合不全の最も大きな側面ではあるものの唯一の現象ではない。そこで、エスニック排外主義ではない側面も見なくてはならない。たとえば、マイノリティの側の過激主義は社会統合を揺るがす大きな要因である。そこで、ヨーロッパ諸国、特に英国におけるムスリム移民の過激主義の様態とその生起メカニズムを考察する必要がある。さらに、そのようなマイノリティの側の過激主義とマイノリティの側の排外主義とが相互に強め合う「累積的過激主義」を見過ごすわけにはいかない。これらの現象の理論的および実証的研究を行っていくことが今後の研究の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費によって使い切る予定であったが、滞在日数が予定よりも1日短くなったため、14,040円が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
14,040円と多額ではないため、今年度予定されている旅費支出によって使用する予定である。
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