国際移民の市民権と社会統合の関係性をさらに考察するために今年度は排外主義に焦点を絞って研究を行った。近年世界中でわき起こっている移民・外国人に対する排外主義の解決や緩和のためには、どのような社会規範や政策枠組みを構築すればよいのだろうか。市民権論の理論視角によれば、排外主義とは行為者、集合体または制度による市民としての承認を拒む態度および行為と把握することができ、包摂的な市民権を創出することが解決の糸口であると示唆される。
事例として英国に着目すると、新英連邦移民に対する排外主義に対処するため比較的包摂的な多文化市民権を採用してきた。ヘイトスピーチ規制も人種関係法、公共秩序法などの中で多文化市民権の枠内で実現してきた。多文化市民権の前提となっているのは諸問題が人種関係間で生起するという人種関係パラダイムである。しかし人種関係パラダイムは、移民の「超多様性」や極右政党の台頭などの排外主義、およびマイノリティによる過激主義によって1990年代以降ゆらぎを経験している。そのようなゆらぎに対応するため、英国の多文化市民権は包摂性を回復すべく、コミュニティ結合、宗教の編入、間文化主義といった修正案ないしは代替案に直面している。
英国の経験に鑑みるに、英国とは異なる帝国解体の経緯を経験したため強固なエスニック市民権を残存させた日本は、ヘイトスピーチなどさらなる排外主義に対処するため多文化市民権の採用の検討が今後求められるであろう。このことは、国際移民の市民権と社会統合の関係性に関する大きな含意である。
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