本研究の対象地は中国内モンゴル自治区のジョウ黄旗であり、事例研究という手法を用いて、定住化による牧畜地域社会の変容と今後の展望を明らかにすることを目的としている。平成28年度は、本研究の最終年度であり、研究全体の補充調査を実施した。 補充調査は6月に実施した。統計的・歴史的資料を収集するとともに複数農家への個別インタビューを行い、現状把握につとめ、追跡調査を実施した。 牧畜地域である調査対象地は、1980年代初頭から今日に至るまでいくつかの現代化政策および環境保護政策を経て、牧畜民の生活と生産は都市的生活様式が浸透するとともに、従来通りの放牧から酪農とチーズ生産へといった生産様式の変化が見られる。地域社会のもっとも基礎集団であるホト(小集落、概ね5~8世帯から成る。漢語では自然村と表記されることもある)では、牧草地をめぐるトラブルの発生による人間関係の悪化と、共同作業の減少が進み、個別化がさらに進展している。現代化が進む一方で、牧草地不足と生活と経済面両方における不安定が明らかになった。 とくに生活面での変化が重要である。牧畜民のなかでは、これまでどおりの牧畜を今後とも経営していこうとするものもいるが、他方では、飼育舎による酪農を営むものもおり、さらにはチーズの生産と販売という商業にまで経営を拡大しようとするものもいる。そこで、生産様式だけにとどまらず生活のあり方もまた多様化せざるをえず、これまでのホトでの地域の共同生活が困難となっていることが明らかになった。
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