社会的排除をめぐる社会運動について、フランスおよび日本の比較研究を行った。フランスの社会運動は「すべての人」の普遍的な権利を主張する。たとえば調査対象団体のひとつ「住宅への権利運動」は、パリでのこれまでの登録者約20000人の9割以上が外国籍者であり、人種差別と入居差別の密接な関連を当事者も認識しているが、反差別運動や移民の運動としては展開していない。それに対して、日本は社会的排除をめぐって、ジェンダーやエスニシティ、階層などのカテゴリー集団ごとの運動のほうが波及力を持っている。 普遍的な権利として運動を展開することは、社会的排除を経験していないミドルクラスにとっても参加のハードルが低くなる。社会的権利の拡大は、社会保障の充実化であり、自分たちにも無関係ではないためである。 その一方で、移民に固有の事情が考慮されにくい。たとえば植民地主義に原因がある人種差別の問題は運動の主張のなかで看過されてしまう。特定のカテゴリー特に貧困な移民層が対象であることがクローズアップされないことで、ミドルクラスの共感を得やすいために、運動は広く支持されやすい。 日本、フランスともに、マイノリティの権利、とくに旧植民地出身の移民の権利が政治的に認められていないため、不利な状況にあるマイノリティの権利運動は、アメリカ合衆国型のアファマティブ・アクションのようにマイノリティに固有の事情を認めさせるための運動として展開するか、普遍的な問題として展開するかのいずれかの様式をとることが明らかになった。
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