本年度は研究総括に向けて、滋賀を中心に新潟、高知、岡山において補足インタビューを実施し、農村の暮らしのなかにある女性力について考察を深めた。昨年から今年度にかけての調査では、稲作の機械化初期段階における農作業の変化を詳らかにしたことにより、女性の農作業が機械の導入期に重労働化したことを明らかにした。小型のコンバインや田植え機が導入されたとき、女性たちは機械操作をはじめとする新しい技術体系とは無縁の周辺的な雑労働を担ったのである。機械が導入されたことで作業全体は機械の作業速度を重視したものに再編され、その際に女性たちは機械の速度に合わせて作業することを要求されたのである。この時期に女性が担った農作業の内容を解明したことで、機械の導入期から大型化が完結するまでの間に発揮された女性力が多大であったことを明らかにでき、また、機械が大型化された際に女性が稲作農業から離れた背景や端緒もとらえることができた。戦後の農業発展を支えた農業機械化の初期段階で発揮された女性力は顕著であり、この調査研究の成果は滋賀大学環境総合研究センターの年報に論文として投稿し、琵琶湖博物館の研究セミナーにおいても報告を行った。これにより、稲作農業機械化の背後にあった農村の女性力を、農業発展史のなかに位置付けることができると考える。 また、農業の機械化と女性の労働再編によりもたらされた食の変化についても、インタビュー調査を行うと同時に、滋賀の食事文化研究会の協力を得て考察を進めた。その結果、圃場整備や灌漑の近代化と相前後して姿を消した採取食や保存食と女性とのかかわりを解明することができた。採取にまつわる女性の知恵や技術に関する考察については、論文として滋賀の食事文化研究会の年報に発表した。
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