シンガポールは、人口の82%がHDB(Housing and Development Board=住宅開発庁)という団地当局の下にある公共住宅団地に暮らす「総団地化社会」である。その成立は一朝一夕に実現したのではなく、成立と成立後の諸過程において様々なことがあった。本研究は、研究代表者のこれまでのシンガポール研究の蓄積を活かした上で、居住地が団地に収斂され総団地化社会が成立するまでに至る過程(1980年代後半まで)と、成立後の過程(1980年代後半以降)を掘り下げることによって、社会史を踏まえて社会学研究を進めた。こうしてシンガポールという興味深いながらその内外で十分研究が行われてこなかった都市社会について研究を進めることによって、東南アジア地域研究のほか、住宅の社会学、とくに団地という公共集合住宅を通した、住宅や居住地をめぐる国家と国民の直接的なせめぎ合いに関する社会学研究の発展に寄与することを試みた。 このために本研究では、①総団地化社会成立までの過程と成立後の過程に関する諸資料の収集及び分析と、②それをもとに研究成果を公表する、という2点によって研究を進めた。 今年度は、①資料収集及び分析として、シンガポールにおいて現地調査を行い、先行研究、団地当局の資料、過去の現地紙記事、著作物、人々の話といった諸資料の収集と現状調査をこれまで行った中で、とくに人々の話の収集と現状調査を中心に資料収集を行った。さらに、これまで収集した諸資料のまとめと分析も進めた。 ②研究成果の公表については、最初期の時代から順に研究をまとめ、HDBの前身機関であるSIT(Singapore Improvement Trust=シンガポール改良信託)が開発した団地に関する研究成果の一部を論文として公表したほか、第89回日本社会学会大会で研究報告を行った。それに続く論文の執筆も進めており、複数の論文として公表する準備を行っている。
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