本研究の目的は、中国農村の急速な都市化・工業化そして農村住民の高齢化に伴って、農民の老後の生活保障に関わる「新農保」制度の導入状況について実証的に調査することである。そのねらいは、農村社会では国の政策がどのように浸透されているのかを検証し、政策の有効性と執行段階の問題点および現地農村社会の慣習と農民たちの生産・生活原理に基づく行動パターンの特徴と構造の把握によって、農村の「養老」問題解決の糸口を見出すことである。とりわけ、社会保障の機能を担う農地の機能の変容について焦点をあてて観察し、農地請負権と農業経営権の「ずれ」および農地経営権の移譲・転換に伴う新たな姿の「農地」機能の変容について、異なる地域から検証し、中国農村社会および農民と呼ばれる身分の農村住民の農地に対する意識の変化について探求していくことである。 平成28年度は、中国広東省を対象地に本研究課題へのアプローチを継続させた。「珠江デルタ地帯の経済的発達地帯の博羅県園州鎮田頭村への再調査」「大都市近郊のライチ果樹栽培として有名な地域である広州市従化区太平鎮銭岡村への調査」「広東省東北部にある貧困地域かつ客家族が集中し居住する梅州市五華県河東鎮苑河村への調査」「広東省北部にある貧困地域かつ瑶族が集中して居住する韶関市乳源県遊渓郷大寮坑村への調査」という4ケ所の現地調査を実施することができた。華南農業大学の研究協力者のもと、本研究代表者が現地入りして農家訪問調査も実現できた。平成26年度から平成28年度までの調査により、「必要な生活保障は土地の価値によって異なる」という考察に至った。この成果は学会で口頭およびポスターにて報告している。
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