本研究の目的は、公共事業の中長期的な政策評価を社会学的観点から行うことに設定している。ダム事業の計画前段階から補償交渉を経て工事着工、さらには事業竣工後(あるいは中止後)一定期間の約50年~70年を調査対象期間に含め、三事例(御母衣ダム、徳山ダム、川辺川ダム)を題材とする事業評価モデルを示すことが目的であり、その手がかりとして、舩橋晴俊らによる受益圏・受苦圏論を捉え直す作業をその中心に位置付けた。
この目的達成へ向けて、最終年度はこれまでの成果のとりまとめを図った。具体的には、日本社会学会大会(10月)の1件のほか、海外において2件の計3件の報告機会を通じて、参加者からのフィードバックを得ながら進めた。海外での報告は、中国・河海大学社会学系および環境与社会社会研究センターによる「河海社会学セミナー」(3月)では、環境社会学研究者や院生が多く参加した。また、北米基盤の応用人類学会(3月)では、INDR(International Network on Displacement and Development)メンバーを中心に「開発にともなう住民移転」領域の研究者や開発援助機関の実務家よりコメントや質問を得ることができた。
また、この過程においては上記3事例のデータ分析および文献収集を前年度までの活動に続いて補足的におこなったほか、3事例以外との比較検討のために、木曽川流域のダム・河川問題を検討するセミナーへの参加や、早明浦ダムをはじめ吉野川流域の現地調査等を実施した。
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