研究課題/領域番号 |
26380700
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
澤口 恵一 大正大学, 人間学部, 教授 (50338597)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 移民 / ゲストワーカー / レストラン産業 / サービス業 / 職業キャリア / 労働 / フランス / イタリア |
研究実績の概要 |
フランス在住の日本人シェフへの聞き取りのために2度に渡り渡航し、レストラン開業者を中心に日本人シェフに対するインタビューを実施した。現地フランスにおけるレストラン産業の実態、ガストロノミーの動向を知ることを優先的課題とし、フランスにおいて就労するシェフへのインタビューを先行して実施することとした。さらに、インタビュー対象者の属性に幅をもたせるために、50代、60代のシェフからの聞き取りを実施することを重視した。結果として、シェフたちの志向する料理、独立開業前のキャリア、独立時の協力者等には渡航年コーホートによる大きな相違がうかびあがらせることができた。比較的高齢のシェフは伝統的なフランス料理の体系を崩さないことを重視しているが、若手の独立者はガストロノミーのグローバル性を重視しており、フランスの伝統にとらわれる傾向は弱い。また従来の伝統的なフランス料理で重視されてきた素材や調理法は、現代の若い顧客には次第に受け入れられなくなっている傾向も確認された。法的規制により労働時間が短いために、伝統的なフランス料理の調理法が忌避されるようになっている。 さらに対象地として、パリ、リヨンに加えて、新たに若年層の独立者が集中しているニースを加えた。3地点では、レストランの経営環境、顧客にもとめられる料理は大きく異なる。独立開業者・長期滞在者とのネットワークのあり方も地域による違いが認められた。リヨンでは独立開業者の年齢が近く、まだ独立開業者が少ないこともあり、比較的密な日本人ネットワークが機能している。 フランスでは日本人の開業に優位な環境が整っていることが浮き彫りとなった。イタリアにおける開業数が乏しいことは、社会的ネットワークの密度、社会的契約における信頼の希薄さ、ガストロノミーの受容度の弱さ、経営環境などが影響している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画上実施予定であったフランス現地での聞き取り調査を予定どおりに実施することができた。帰国し日本で開業をしたシェフ層への聞き取りは、フランスにおけるガストロノミーやレストラン産業の実態を把握した後に実施すべきと考え、次年度以降に実施することとした。フランスにおける開業者への聞き取りが順調に進捗し、イタリアの最新動向も把握することができたため、日伊比較については十分な資料を収集することができている。パリにおけるテロの影響が懸念されたが、さいわい2度の渡航において調査計画を見直す必要はなかった。 次年度以降、調査を実施する予定であるスペイン料理についても今年度から着手をすることができている。3月にもっとも早くにスペインに渡航をした方から聞き取りを行うことができ、リサーチのための足がかりを気づくことができた。 本研究の成果の一部として、平成27年度は日本社会学会大会での研究報告を実施するとともに、1本の紀要論文を執筆し公表することができた。さらに現在、本研究のデータをもちいた研究を平成28年度刊行予定の著作の一部として分担執筆している。以上のことから、総合的にみて、これまでのところ研究は計画通り順調に進捗していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の課題は、第一に、フランスで長期就労し日本に帰国した後に開業をした日本人シェフ層から聞き取りを行うことである。これまでのフランスにおける聞き取りの成果をもとに、対象者の戦略的な選択や選別を行っている。計画どおり対象者の選択にあたっては、渡航年コーホートの比較を重視している。 第二に、フランスにおける聞き取りがある程度進捗しているために、スペインにおける聞き取りを開始する予定である。2月に実施したスペイン料理関係者からの聞き取りをもとに、長期滞在者の集住している地域を対象とする予定である。スペイン料理関係者のリサーチを行うにあたり、専門書や料理雑誌の資料を収集する予定である。 第三に、フランスにおける聞き取りを、今後も継続していく必要がある。とりわけパリにおける聞き取りは、不十分でありこれまでのリサーチによって、新たに知り得た長期にわたる開業者に対する聞き取りを継続していく予定である。 最後に、データの収集と同時進行で、分析と研究成果の発表を平行して行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月に国外出張、3月に国内出張をし、出張精算書を提出した時点では、使用額が0になる予定であったが、学内の旅費規程細則により、日当の支給額が減額となったために、若干の残金が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は次年度の国内出張旅費の一部として支出する予定である。
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