本研究は、川崎市ホームレス一時宿泊施設「愛生寮」の入所者台帳から、2000年代の野宿者・ホームレスの生活履歴を検討して、日本社会における社会的排除の状況を探るものである。資料は、自立志向の強い層、福祉・医療支援を要する者、年末年始期間の一時宿泊者にグループ分けをして、それぞれの特徴を探った。 それぞれのカテゴリーで共通する点は、人生上の大きな出来事のある者、特別な出来事がなかった者に分けられることである。大きな出来事の種類は、幼少期の貧困、家族別離、事故、病気・障害、犯罪を上げることができる。特別な出来事の記述がない場合は、低所得と複数回の転職経験(日雇労働)が大きく影響を与えていた。そこで野宿生活以前の貧困経験が、不安定生活(不安定な雇用と住居)を生んでいることがわかった。 2019年度の研究では、中高年世代の施設利用者が、野宿以前の経験に注目をして、分析を行った。(1)幼少期に貧困を経験した者:生まれ家族の不安定さによって、経済的困窮ならびに地域移動をもたらし、その影響が中高年期にも影響を与えていることが分かった。この知見は、貧困家庭の先行研究と共通するものである。(2)中高年期に、正規雇用からの失業と地域移動を経験した者:宿泊施設を利用する前に、失業と首都圏への地域移動がセットとなっている。短期間での生活変化を生み出す要因については、借金、依存症、犯罪が主な要因となっている。 本研究の特徴は、野宿経験をした人々ののべ500件以上の生活記録をもとにして、どのような経験を経て野宿生活へ至ったのかをさぐる量的調査による点である。野宿経験をする人々の層としての特徴を探り、これまでの質的調査による知見とあわせ、現代日本の社会的排除の状況を総合的にとらえる点に意義があると考えられる。
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