研究実績の概要 |
現代日本におけるノスタルジア現象については過去の時代体験を持つ人が当時を懐かしむ=懐古といった一過性のブームだけで説明しきれるものではない。むしろ直接体験の有無にかかわらず過去のある時代にあったと考えられている特定の価値観や行動に範をとり,現代人としての生き方の再考を促すような生活意識やスタイルとして定着したのではないだろうか。こうした実態について検証するのが本研究の目的であった。なお,本研究では,昭和時代全体を取り上げるのではなく,ノスタルジア現象と分かちがたく結びついている「昭和30年代」に絞って問題化している。検証方法は,リサーチクエスチョンによって,インタビュー調査,インターネットを介したアンケート調査,ドキュメント分析,観察法が使い分けられた。 まず昭和時代のくらしや価値観に共鳴していると思われる集団,具体的には,東京都内の昭和のくらしを展示のメインテーマとしている私設博物館の友の会メンバーに対して聞き取り調査を行い,調査対象者の語りの語彙から昭和的な価値観との親和性を確認した。 つぎに,昭和時代についての認識やイメージの構造を探ることを目的に一般人(インターネットパネル)に対して調査を実施した。調査期間は第1次が2016年9月で回収1,000サンプル,第2次は2018年2月で同2,078であった。これらの検証課題は,①直接体験がある高年層と,直接体験がないはずの若年層といった年代による違い,②昭和30年代を体験していない若年世代の中でも一定数みられる昭和30年代を理想化する(“見習うところがある”)意識について,他の意識や行動とどのように関わっているのか,の2点であった。 さらに地域社会において,昭和30年代を含む昭和年代に焦点を当てた数々のプロジェクト・取組が散見される。現地での観察や関係者に対するヒアリング調査を行い,当地住民における意味づけについて検証した。
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