研究実績の概要 |
東日本大震災が発生した2011年3月11日から同年3月31日までの政府・東電の記者会見テキストデータ(本科研費で作成、FUKUSHIMA STUDYのサイトに掲載)を利用し、福島第一原発事故の記者会見におけるジャーナリストの情報収集の姿勢を分析した。 ジャーナリストたちに求められるのは、会見者が発信したい情報をただ伝達するだけでなく、会見者にとって都合の悪い情報も含めて引き出すことである。千葉涼は、記者会見の質疑応答においてジャーナリストがどれだけ批判的な姿勢をとったかを示すadversarialnessという概念に注目し、会見のテキストデータを用いた分析をした。 adversarialness は(a)主導権,(b)直接性,(c)積極性,(d)敵対性という4つの次元で構成される。分析の結果、東電よりも政府に対して追及が甘かったとか、日数が経過するほど批判的な姿勢が減退したというような、一貫した方向性でのadversarialnessの変動は見られなかった。どの次元のadversarialnessが高まるのかは会見者ごと、時期ごとに異なっていた。事故発生直後のマスメディアは、総じて「大本営発表報道」だったと言われるが、取材過程をより具体的に検討をする上で、会見テキストデータとadversarialnessという概念を用いた分析は有効であると考えられる。 日本以外の国における原発事故報道として中国の新聞報道を分析した。于海春は、『人民日報』(全国紙)と『新京報』などローカル紙3紙を対象に、原発事故発生後1カ月間の報道分析を行った。その結果、原発事故の情報源としては、中国語の日本メディアやNHKなどの日本メディアの情報に高く依存していた。また、ローカル紙は日本の原発事故を報道する一方、「中国原子力発電は安全である」というフレームを構築し、報道フレームが同質化する傾向がみられた。
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