研究課題/領域番号 |
26380718
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
阿部 利洋 大谷大学, 文学部, 准教授 (90410969)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 移行期正義 / 社会運動 / 和解 |
研究実績の概要 |
体制転換後または武力紛争終結後の社会では、その社会再建策の重要課題として過去の不正あるいは加害・被害関係に公的に対応する必要に迫られる。これまでおおよそ30年に渡る国際的な取り組みの中で移行期正義というカテゴリーが確立してきた。しかし、その実施に伴うさまざまな問題点は、依然として十分に把握されていない。本研究では、社会学的な観点からこうした問題点を分析することを目的としている。 平成27年度は、移行期正義政策の中でもとりわけ紛争記憶の公的表象、すなわち紛争被害の公式の意味づけに焦点をあてた現地調査を行うと同時に、社会的な文脈・歴史的な背景を異にする複数の移行期正義プログラムを包含する理論的枠組みの整理に取り組んだ。 まず、従来、多様な個々のプロジェクト――国際法廷、真実委員会、公職罷免、(象徴的・物的・金銭的)補償、各種制度改革等――をどこまで移行期正義のカテゴリーに含めるかという点から行われがちであった定義を、移行期正義が行われる「移行期社会transitional society」の条件・特徴を反映する形で行い、そこからの偏差によって個別のプロジェクトの性格を認識できるという立場を採用した。次に、移行期正義研究全般にわたる傾向として、どのプロジェクトに対しても否定的な評価が下される点に着目し、それがどのような理由によって生じているのか、検討した。結果として、移行期正義プログラムを構成する主要な4要件、すなわち公的なアナウンス、動員、公的イベントにおける共通体験、ネーションビルディングのそれぞれの不十分な実施状況が、各プログラムに対する否定的評価の基本的形式であるとの視点を得た。この分析は英文書籍原稿としてまとめ、年度内に出版社へ送付し、現在査読審査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移行期正義分野に対する体系的な社会学的アプローチを提出するという目標に対して、とくに理論的な側面からの検討が順調である。公刊へ向けての準備も現在の時点では当初の計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
現地の状況により、渡航予定であった調査地(シエラレオネ)で1次データを収集できていない。この点について、当該社会に関する2次データの分量を増すことで対処する一方、社会条件の面から類比可能と思われる別の社会における現地調査を再検討する。 また、理論的な独自性の強化を、移行期正義分野のみならず関連する社会学分野の研究者との意見交換を通じて推し進める必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は現在の残額であり、ほぼ予定通り使用できたと考えている。年度後半に購入予定であった文献資料が在庫切れであったため、表記の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
在庫調達の連絡が入り次第、当該文献資料を購入する予定である。
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