研究実績の概要 |
平成29年度は本科研の主たる成果として、査読論文を2点執筆、発表した。まず、アメリカ型多文化主義成立の重要な契機として、連邦政府内部で5つの人種エスニックなカテゴリーの定義を行われ、それが政策実践に応用される過程を分析した論文「人種を数える:1970年代の連邦政府における人種とエスニシティの標準化」を『アメリカ史研究』(日本アメリカ史学会)に査読論文として掲載した。また、1990年代においてアメリカ型多文化主義が教育分野で大きな論争となるとともに、多文化主義を語る言説的枠組が確立する過程を分析した論文「包摂と分裂のカリキュラム:ニューヨーク州教育改革と多文化主義論争」を『アメリカ研究』(日本アメリカ学会)に査読付き論文として発表することが決定した(2018年春刊行予定)。これに加え、日本社会学会年次大会で、反多文化主義の潮流を「マイノリティの優遇」論という観点から分析した「アメリカ型多文化主義と「マイノリティの優遇」論」を報告するなどした。 研究期間全体を通して、単著『アメリカ多文化社会論:「多からなる一」の系譜と現在』(法律文化社, 2016年)によって理論枠組を提示したうえで、アメリカでの現地調査によって収集した資料を活用し、20世紀後半におけるアメリカ型多文化主義が、連邦政府における公民権改革をめぐる枠組のもとで政策化しながらも、地域社会における草の根の社会運動やローカルな政策実践との関係性のなかで、その独自の様式として構築する過程が明らかになった。なかでも、その基本的な形が、反多文化主義勢力との対立や闘争のなかで形作られたことを明らかにしたことは、反移民感情や白人優越主義の復活が強調される近年の合衆国の人種関係を考えるうえでも有効な視点を提示することができたと考える。
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