女性の受講を想定するメディア・通信教育は、社会におけるジェンダーを強化した側面も持つ。家庭料理番組のテキスト購入をはじめとして、家事や家政に関わる女子教育はその典型であろう。女性の社会参加よりも家事スキルの向上をめざしたように見える教育は、性別役割分業を強化するものとして批判的に考察する必要があるだろう。とはいえ戦後日本においていち早く認可された女子高等教育機関である日本女子大学の家政学の通信教育は、男女共に受講すべき教養講座の一科目として位置づけられていた。また、GHQのCIE(民間情報教育局)主導によるラジオ=メディア教育(ラジオ『婦人の時間』)も、戦後の民主化政策のもと、男女平等の理念を日本社会に根付かせるための女性向け教育番組として登場している。占領期が終了し日本の経済成長が始まると、「サラリーマンー専業主婦」家庭が一般化していく。通信教育の受講傾向には性別の違いが歴然とあり、なかでも商品としての通信教育では、その傾向は顕著であった。男女問わず受講が可能であってもその選択には文化的ジェンダーが長らく存在した。先の戦後に導入されたメディア・通信教育は次第に女性に特化された家庭的、教養的な内容となり、社会において男女平等を実現するという初期の理念は薄れていった。一方でジェンダー化された戦後のメディア・通信教育は、日本の家庭生活、ライフスタイルを支える文化的コンテンツ(とくに家庭料理文化の多様化など)として発展し、消費者の要望に応えて多くのプログラムを生み出した。教育効果そのものよりも女性同士の縁(つながり)を生み出した契機としての側面にも目を向ける必要がある。当初の目的とは異なっていたものの、女性を中心に受講されたメディア・通信教育が、教育の枠を超えて日本のメディア文化の世界を拡大したことは間違いないだろう。
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