研究課題/領域番号 |
26380726
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
白井 千晶 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (50339652)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生殖技術 / 不妊 / ライフストーリー / 卵子提供 / 自助グループ / 非血縁的親子 / 家族形成 / 養子縁組 |
研究実績の概要 |
4年間の研究計画では、被卵子提供による親子形成を中心に、その他の非血縁的親子形成(養子縁組、里親子、ステップファミリーなど)を含みながら当事者調査研究を実施し、当事者グループの構築と情報提供媒体を作成するために、1.当事者インタビュー、2.海外動向レビュー、3.文化・規範研究、4.当事者グループ構築と情報媒体作成、の4つの項目を設けた。 2016年度は、1.として、個人に対するインタビュー調査を19ケース実施した。その多くは卵子の提供を受けて母親になった女性であるが、非血縁的な親子関係の構築および、子どもが授からない場合の選択肢(里親、養子縁組など)を広く調査して、卵子提供の位置づけや特徴を検討するために、第三者が関わる生殖技術に係る医師、養子の立場の方、自らの子を養子に託した方にもインタビューを実施した。 2.として、海外の自助グループや当事者団体などをリサーチした。研究終了時に発行予定の報告書に含める予定である。4.として、「おしゃべり会」と名づけたピア活動を4回実施した。卵子提供で母親になっていないが、卵子提供を実施中・検討中の当事者から、ピア活動のニーズがあり、そちらについても「おしゃべり会」を実施した。語り合いの中で、気持ちや考えが整理されたと推察される。カップルでの参加も、よい効果があったとフィードバックがあった。また、ピア活動が一助となって、ピア活動のメンバーの一人が、子どもに出生の経緯を伝えるテリングに関する絵本を出版し、研究代表者が解説を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記した1.のインタビュー調査と、4.の当事者グループ構築は、引き続き順調に進んでいる。概要に記載したように、4.の中で、メンバーが出生の経緯を子どもに伝える絵本を出版し、テリングの解説書を作成したことは、計画にはなかった創造的な成果だった。 前年度は2.の海外動向レビューが十分に実施できていなかったが、平成28年度は、海外の自助グループ、当事者グループをできるだけ網羅的にリサーチした。また、世界の当事者活動を牽引するネットワークの一つであるDonor Conception Networkの創立メンバーに話を聞くことができ、当事者ネットワークのエッセンスについて貴重な示唆を得た。アメリカでは、クリニックが運営する当事者グループについて、運営者に話を聞くことができた。 計画で3.とした文化・規範研究では、具体的内容については意識調査の実施を計画していたが、同様の調査が存在するため、有効に研究をおこなうために量的調査は実施せず、インタビューによる質的調査を継続して進めることとした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、アクション・リサーチとして、課題対応型、相互作用的な構築型のインタビュー調査やピア活動を実施していく。平成28年度は、カップル参加、子どもの参加など、ピア活動が多様な展開を見せた。子どもの成長に合わせて、子ども向けのワークショップも、今後、展開していきたいと考えている。そのため、最終年度では、その準備として、子ども向けのワークショップの内容や方法について、研究を深めたい。参加者が有配偶の場合、カップル関係から離れて語りたい・語るニーズがあることもあれば、カップルに情報格差が小さいことが望ましいためにカップル単位での参加ニーズがあることもある。「おしゃべり会」は、多様なパターンで開催したいと考えている。 最終年度は、これまでの研究で明らかになったことを広く公開していく年度と考えている。これまでの成果を報告書としてまとめるだけでなく、ホームページを作成することも、最終年度の目標である。誰もが対面的なピア活動に参加できるわけではないので、オンラインで情報提供や、当事者に出会える「場」が提供できるようにしたい。 それが最終的には親だけでなく子どもの福利向上にもつながると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査は、他の用件で出張したさいに実施できた。また、意識調査を実施する計画があったが、類似の調査があるため、それを利用するほうが合理的であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
ホームページを開設して、対面的なピア活動に参加できなくても、情報が得られる環境を構築する。そのための環境や情報、資料を収集し整える。
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