本研究は、これまでの先例的研究における、契約化に伴い生じ得る一般的な問題を想定し、それに対応するために、法律学あるいは福祉実務の手法を単独で用いることで問題解決策を構想していくというアプローチとは異なり、まず初めに、現行法上の福祉サービスの利用関係に基づいて、すでに発生している個別具体的な問題状況を把握し、これらを各福祉サービスごとに類型化したうえで、すでに提示されている民事法的アプローチのみならず、行政法的アプローチや、社会福祉における実務的な解決手法の当該問題への適用可能性、問題解決の実効性を検討、分析し、さらには、法律学および福祉実務からなる複眼的な視点に基づく相互補完的な解決手法の可能性を、体系的かつ横断的に検討することを目的とするものであった。この目的を達成するために実施された聞き取り調査や,文献収集による分析、検討の結果として、契約という私的自治を中心とする利用関係においては、サービスの具体的内容や質の担保を当事者間関係に委ねる事に、一定の限界があることが明らかとなった。 しかしながら、我が国の現行制度上における運営に際しては、行政機関による規制が、もっぱら、サービスの最低限の質の担保に限定されており、その結果、利用者と事業者関係に対する直接的な法的強制力を何ら有していない。それゆえ、上述のような問題状況を改善するためには,利用関係に対する現行法制を超える,行政介入が求められるとの結論に至った。この間の成果については、問題状況の分析把握を中心に、3本の論文と学会報告において,その一部を公表している。さらに、私的自治を損なわない形での新たな介入手法に関しては、最終年度における情報分析を踏まえ、順次公表する事を予定している。
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