本研究の目的は、国際比較研究を通じて、日本の生活保護制度の給付の水準および制度構造上の特徴と問題点を明らかにすることである。日本における生活保護制度改革においては、常にその給付水準の妥当性が論点となっているが、最低賃金との比較に議論が偏る傾向にある一方で、生活上のニーズや一般の消費生活水準との対比について十分な議論が行われているとは言い難い。そこで、本研究は、共通の世帯モデルケースに対する各国の社会扶助(公的扶助)の給付水準をそれぞれの国の消費生活水準と比較することで把握し、その上で、日本の生活保護制度の水準を検証することを目的としている。各国の消費生活水準を把握するためには、物価等を勘案した調査研究が必要となる。2015年度は、イギリスの5都市において、バジェット方式による生計費を推定するための資料を収集した。当初予定から、イングランド北部、中部、南部と調査ポイントを多く設定し、物価の実態などを調査した。地域において住宅費の状況が大きく異なっている一方、食費などの実勢価格に大きな差異は見られなかった。総じて、食品価格は、日本と比べて非常に低く設定されており(本来20%の消費税は、食品には非課税)が、品目によっては異なる場合がある。また、イギリスでのヒアリング調査により、「リファレンス・バジェット」の概念や手法、ベルギーなどを拠点とする国際比較研究の現状について最新の知見を得た。さらに、イギリスの社会扶助制度の現状、特に各種手当の統合による新制度(ユニバーサル・クレジット制度)の実施が依然として困難を極めており、完全実施のリスケジュールが行われていることとその背景、異なる制度の利用者の情報を一元管理する上での技術上の問題が解決されないままであることを確認することができた。
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