生活困窮者とは、労働、社会保障、家族、住宅などの社会的統合装置から長期にわたり遠ざかって/遠ざけられている人びとである。今日のフランスで生活困窮者のコアをなしているのは、社会的統合装置のうちでももっとも重要な労働から長期にわたり遠ざかって/遠ざけられている稼働年齢層である。稼働年齢層に対するフランスの最低所得保障制度は、伴走型就労支援制度を併せ持っており、2008年創設のRSA制度以降このような就労支援のウエートがますます強化している。 最低所得保障制度を受給している就労の意思と能力のある生活困窮者に対する就労支援としては、民間就労支援組織であるSIAE(経済活動による参入組織)が注目される。生活困窮者は労働の場での規律の欠如、仕事の段取りの拙さ、コミュニケーション力不足などのため就労・雇用復帰が困難になっている面があるが、このような状況を打開する目的で、SIAEはこれらの人々に就労体験の機会を提供している。各SIAEは、特定のカテゴリーの人々へのスティグマを回避するため、若者、中高年者、ひとり親、薬物中毒者、外国人定住者、障害労働者、拘留者(外部での就労体験を許可された者)などをミックスして対応する。様々な背景をもつ生活困窮者は、最長2年間の援助付き雇用(有期労働契約)で、参入被用者として最低週20時間以上の就労を行い、法定最低賃金が保障されるとともに、保険料負担なしで社会保障制度への加入が認められる。参入被用者は、SIAEのスタッフである職業参入カウンセラー、ピアカウンセラーなどから職業技術、社会関係に関する後見的支援を受ける。 SIAEは、生活困窮者に伴走型就労支援を行う中間的就労の場と位置づけられるが、日本の中間的就労の場とは異なり、参入被用者への賃金の補助、就労支援スタッフ雇用への助成、社会保険料使用者拠出の免除、税優遇などが労働法典で詳細に規定されている。
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