研究課題/領域番号 |
26380779
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
木村 真理子 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (00266462)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 精神保健ケアシステム / 包括的ケアシステム / 地域移行 / ケースマネジメント / ケアの連続性 |
研究実績の概要 |
日本の精神保健医療福祉以外の分野で頻出している包括的ケアの用語がどのように用いられているのかを実際の使用例を用いて検討した。一方で、精神保健分野で用いられてきた「包括的ケアシステム」例えばマディソンモデルにおけるシステムの機能や内容における包括性と最近日本でもちいられている包括性の比較検討を行った。 近年、とみに包括的ケアということばを、地域福祉や高齢者福祉分野で目にする機会が多くなってきた。急増する認知症高齢者を含めた在宅福祉の課題や、供給が危ぶまれている高齢者介護人材の課題が存在し、地域での有機的なシステとサービスの効率的運用が求められているとの社会的背景は理解される。 包括的ケアなどにみられる「包括性」の用語や概念が登場したのは、おそらくアメリカの精神保健分野の脱施設化政策やケネディ教書に示された地域ケアの概念、ケースマネジメントの要素とサービス提供の仕組み、精神の障害をもつ多様なニーズを有する人々をケアする多技能多職種の分野の支援が求められる背景から、精神病院の病棟の壁を取り払い、地域に移行させるべく開発されたシステムに思いを改めて致す。 日本のメディアや文献により、現在の高齢者や地域福祉の包括性という概念は非常に未整理で、多職種、多機能が有機的に相互作用を生み出し相乗効果を生み出すことを目指しているとはいえ、その連携や分野、例えば、医療の仕組みと福祉の仕組みの間を橋渡しできる分野は非常に限定的であるように思われる。すでに日本の精神保健分野で実践されている地域精神医療保健福祉分野の「包括的地域生活支援」の実践例と名称は、目的性はあっても、包括性という内容の担保は限定的であると理解される。鳥取では、「積極的地域介入支援」という名称を使っており、この名称のほうがその目的(Assertive Community Treatment)にふさわしいとの印象を筆者は持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精神保健医療福祉領域における行政の用語「地域移行」という言葉が日本の精神保健福祉分野のみでなく、高齢者分野や地域福祉分野で頻繁に目にする機会が増えている。同時に、「包括的ケア」や「包括性」という言葉も目にする機会が増えた。一方で、筆者がこれまで長きにわたって研究の焦点として扱ってきた脱施設化に伴う「地域ケアシステム」におけるケアの包括性やケアの連続性の定義とは異なる多様な用いられ方が目立つように思われる。高齢者分野で「包括性」という用語が頻出するに伴い、精神保健分野でこの「包括性」の意味の厳密さが失われてしまった感がある。包括性という用語の概念規定が求められるとともに、精神障害に伴う医療と地域支援システムにおける包括性の意味の再定義が求められているのではないかと思われる。このような問題意識が再度、現在の「地域移行」という政策を検討するうえで必要ではないかとの問題意識を新たにした。
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今後の研究の推進方策 |
日本の精神保健医療福祉領域に限定して、地域ケアの状況について、「地域移行」の進展の度合いを事例等から検討し、内外の事例および研究をもとに比較検討を加え、本研究の課題を抽出する。また、「包括性」に関する精神保健医療福祉における定義を、先行研究から再度引き出し、「包括的ケアシステム」の定義と概念、重度の精神障害に対する介入のモデルを再確認する。このモデルは、西洋のモデルに帰結する可能性が高い。一方で、現在日本で実践されている事例から抽出して地域ケアの要素や包括的と称する状況に含まれる要素を批判的に検討し、今後の「地域移行」の課題を引き出して、研究の結論を導く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
情報収集・調査目的での出張費を支出しようとした際に、先方への情報提供と講義を求められたため、旅費(航空運賃のみ)は支出せずに済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
新年度に、類似の情報収集および調査目的で使用の予定である。
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