今期の研究において報告者は、第三者が関わる高度生殖医療技術を活用して家族を形成した人々の、Human well-beingが保障される福祉社会システムを、ケアリング・コミュニタリアニズムの思想に依拠してデザインし、コミュニティベースで普及させていくために、グローバルな視点からインクルーシブ社会を創造することが求められているとの示唆を得た。 この示唆は、①わが国において「子どもの知る権利」と「家族を形成する権利」の対立を解消する理路の構築とその後の施策化並びに施策の質の担保し、②生殖医療を利用すること自体がすでに国境を越える「普通のこと」となっているグローバル・イシューであることを想起し、国境を越えた議論がなされていること。さらに③「生まれてきた子」とその家族は「地縁」や「血縁」を拒み、国境を越えて居場所を求められていると推察された。そうした状況におかれた人々は未だ実態として把握されていないが、在留邦人が100万人を越えている今、異文化の中で「生まれ・育ち・くらす」不妊経験者やそれにより生まれた子は少なくないと考えられる。 このように生殖医療と生活を人の生涯にわたる幸せづくりと関連づけて探求していくとき、「生まれた地」を越えて、移住先(国内外を問わず)で、彼らが幸せに生きる権利と生殖医療の恩恵を受ける権利とは切り離せない議論の対象となる。 わが国で生殖医療を活用して生まれてくる子どもの最善の利益、すなわち生殖医療で生まれることも「あたりまえの福祉」の享受の実現であるといえる生殖医療システムを構築する上では、「開かれた医療+公益性の保持=共通善」が保持され、寛容な社会の協創が、当事者・医療者・第三者を含めてなされ、社会システムとしてのロジックとして構築されることが望ましいという示唆を得た。これを構築する対人支援を「生殖ケア」と呼ぶ新たな仮説を構築した。
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