研究課題/領域番号 |
26380792
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研究機関 | 中部学院大学 |
研究代表者 |
柴田 純一 中部学院大学, 人間福祉学部, 教授 (90512012)
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研究分担者 |
嶋貫 真人 大妻女子大学, 人間関係学部, 教授 (60369204)
木本 明 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (60408284)
清水 浩一 明治学院大学, 社会学部, 教授 (90141093) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生活保護制度 / 保護の決定及び実施 / ケースワーク / 保護の実施要領 / アセスメント / 稼働能力の活用 / 扶養義務者による扶養の優先 / 保護の補足性 |
研究実績の概要 |
【進捗状況】研究目的は生活保護の受給要件の認定をアセスメントとして行う様式の開発である。前年度までに、現場の運用状況の聴き取り調査を行い、研究分担者嶋貫により、扶養の取扱いに焦点を当てた制度運用上の課題を明らかにした。代表者は法改正の状況をふまえ、保護の決定を「ケースワーク」として行うとする前提を欠くこと及び事務処理基準の不十分な状況を明確化した。 当年度は、嶋貫により、「他法・他施策の優先」に係る法令の検討及びアセスメントの提示が、研究分担者木本により、ニュージーランドの制度との比較から、わが国の制度運用における不適切な対応の現状を分析した。代表柴田は稼働能力の活用要件に係るアセスメント様式の基本的枠組みを研究中である。 【法令及び判例検討】各研究者により、「保護の実施要領」を受給要件ごとに焦点をあて検討すると、受給要件を認定する基準として、不十分な部分があるとともに、受給要件の認定のみならず、行政指導の有無を認定の根拠とする規定があることが明らかとなった。また、判例は保護の要件たる稼働能力の活用・不活用の認定をめぐって新たな法解釈を形成し、保護の実施要領に先行している状況にあるため、これらを反映したアセスメントの必要性を確認した。またアセスメントの基本的枠組みについて研究分担者のほか、野々村泰道(新宿区役所)、大迫正晴(学習院大学)、柴田美意子(岐阜聖徳学園大学)の連携研究者を含めた共同研究として実施している。 【研究会実施】定期的に、共同研究者による研究会を実施するとともに、福祉事務所職員の参加による意見交換会を実施した。意見交換会では、現下の運用における課題として、厚生労働省が「不適切な対応」を行わないような注意の喚起、死亡事故事例をふまえ法解釈の指針を示し、保護の実施機関への指導を行う事態となっている事態をふまえた議論が行われ、今後の本研究の課題が確認されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生活保護の決定のためのアセスメントは、保護の受給要件ごとに法令上求められる事実認定を行うためのアセスメント項目を設定し、その項目ごとの評価項目を考察する作業が必要である。 その前提として、現在の法令の規定状況について、生活保護法の解釈と、事務処理基準である「保護の実施要領」との整合性の検証を行い、現実に起きている運用上の課題をふまえた検討を行う必要がある。 「稼動能力の活用」は、「保護の実施要領」において能力に関する判断基準が示されていない中で、保護の実施機関が立証する責任があるとされる(「生活保護制度に関する国と地方の協議(2011)」)など、生活保護の受給要件の認定は、必ずしも受給要件ごとに、事務処理基準(「保護の実施要領」)が対応できている状況にないことが散見される。これは、従来制度の運用が「ケースワーク」として行われてきた背景があり、個別的な判断が現場に任されていたことによる。ここに、適切な行政処分の要件を挙証する必要性から、アセスメントが必要となるものである。したがって、法解釈から、アセスメント項目の適切性を検討する前提として、法の規定と「保護の実施要領(事務処理基準)」の整合性の検討を先行させる必要性がある。その後にアセスメントの基本的枠組みを検討することとなっているため研究の過程が計画時の想定を超え複雑化した経緯がある。 また、生活保護制度の運用においては、国会が「生活保護法の一部を改正する法律案に対する付帯決議」において「水際作戦」があってはならないと宣言し、国が実施機関に対し「不適切対応」を行わないよう示した法解釈の指針(2016年3月主管課長会)をふまえる必要性が生じたため、想定以上に時日を要しているものである。
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今後の研究の推進方策 |
生活保護の受給要件の認定に関して導入するアセスメントの必要性を明確化し、具体的に、能力の活用、扶養義務の優先等に焦点をあて本研究の目指す基本的枠組みを開発する。特にケースワークという枠組みではない、行政処分の挙証責任をふまえたアセスメントの必要性を明確化し、実務に即した仕組みの開発に向けた研究を進める。 しかし、保護の受給要件の認定は、法文上ひとつの項目であっても事実認定のために膨大な項目を客観的な基準により判断する必要があり、具体的な方法として、できるだけ焦点を絞り、基本的枠組みが明らかとなるようなモデルの構築を行うように努める。また、受給要件の有無をいかなる事実により判断するか、行政指導の行為の有無による要件の充足(扶養及び他法優先がなされたかの認定の場合)をいかに扱うかか、要件の有無が明らかでない場合の対応をいかに行うか等、単にアセスメント項目ではない、法解釈の検討がその前提として求められる。 したがって、今後は、アセスメントの基本的枠組みの提示が可能な要件項目に絞り込んで、アセスメント様式の試作を行うものとする。また、現在制度運用上国が「不適切な対応」を行わないよう保護の実施機関に注意を喚起し死亡事故事例をふまえた法解釈の指針が示されている。国が重点課題としている「不適切対応」とされる事例に共通する不適切な法解釈において、アセスメントの方法を活用し、これまで検討しなかった申請時の対応等を加えて、研究内容の再構成を図る。 研究方法は、これまで行ってきた法令、判例等文献研究とともに現場実践者との意見交換、民生委員等地域における生活保護受給者を支援する関係者の意見等も参考にして研究目的の達成に努めるものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者との打合せ(研究会)について、代表者勤務地で実施することを予定していたが、分担研究者の勤務地に代表者が出張することとなり、また他の用務にあわせて出張した回数が多く、旅費の執行が予定を下回ったこと。 連携研究者の研究室を使用した打合せを行い会場費の執行が予定を下回ったこと。また、成果に関して意見交換を求める検討会の開催が予定の回数を下回ったこと。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究者・実務者との研究会の回数を増やし、参加人数を拡大し、出張調査も行って、予算の適切な執行に努めるものとする。 連携研究者との連携を拡大するとともに、民生委員、市町村議会議員等地域で要保護者を支援する関係者との意見交換も行い、国の行政指導の重点とされた「不適切事例への対応」の改善に資する新たな研究目的の修正をふまえた研究活動の拡大を図り、予算の適切かつ効率的な執行に努める。
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