戦後70年を経ても被爆者への支援は充分ではない。本研究は原爆小頭症患者(以後、小頭症患者)の在宅における支援体制を検討することを目的としている。療養や生活の実態調査の結果、複合的な障害と高齢化により自力での生活が困難な者が多かった。また、未だに内面には不安や苦悩が存在しており、高齢期の今も心のケアが求められていることが明らかになった。その背景には、これまで被爆者の心のケアの機会がないまま経過してきたことがあげられる。在宅でのひとり暮らしの継続や家族との同居も限界に近づいており、日常的な相談体制の整備だけでなく、心のケアの必要性が明らかになった。 小頭症患者は爆心地より近距離での胎内被爆により脳と身体に障害を持っており、語ることに困難がある。調査では時間をかけてゆっくり聞き取り、日常的なメモなどの記録を活用し質的研究方法を用い分析を行った。その結果、直接的な被爆体験はないが、過酷な生活の中で心の被害を抱えながら生きて来たことが明らかになった。また自身の体験を語らない被爆者の調査も行ったが、同様に心の被害が見出された。 近年、沖縄戦などの戦争犠牲者の高齢期の精神症状についての研究がすすんでおり、戦争体験を語らない高齢者にも被爆者と同様に心の被害が継続していることが指摘されている。表面的には感情や思いを捉えにくい人、話さない人、話すことに支障がある人も、戦争による被害者としてさまざまな心の被害を抱えている可能性がある。本研究を通して、被爆者だけでなく現代の高齢者は多くが戦争体験者であり、戦争の被害者であるという視点を社会福祉専門職教育において涵養する重要性も示唆された。
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