研究課題/領域番号 |
26380806
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
塩満 卓 佛教大学, 福祉教育開発センター, 講師 (80445973)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 精神障害者家族 / 世帯分離 / 意識変容 / 複線径路・等至性モデル |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究テーマは、「子離れを決意した精神障害者家族の意識変容プロセス」である。子どもが統合失調症を発病し、世帯を分けて暮らすことを実行するまでの母親意識の変容プロセスについて、インタビュー調査により得られた質的データをもとにTEM(複線径路・等至性モデル:Trajectory Equifinality Model)分析を行い、類型化を図る仮説生成研究を実施した。 研究目的は、2014年1月の障害者権利条約批准により保護者制度が廃止となり、新たな家族支援のあり方を検討する素材として資することである。これまで多くの実態調査や先行研究の結果から、精神障害者の地域生活は家族を中心とした支援により成立しており、とりわけ母親が本人支援の中心的役割を担っていることが指摘されている。また、これまでの専門家による精神障害者家族への支援は、再発防止や地域生活の継続を目的とした「援助者としての家族支援」が中心的テーマであった。今後は、家族自身の自己実現を目指す「生活者としての家族支援」が強く求められているといえる。そこで、「世帯を分けて暮らすことを始めた母親」の語りには、多くのヒントが含まれていると考えた。 予備調査を含め8名のインタビューデータの中から、精神障害者家族会及び家族教室に参加した経験を持つ3名のTEM図と統合版のTEM図を作成し、ストーリーラインを作成した。以下3点の知見を得られた。1つは、仮り置きした最初の必須通過点「統合失調症の告知を受ける」の前に「摩訶不思議な行動に気づく」という必須通過点が生成した。2つめは、等至点「離れて暮らす」の後に「友人役割や援助者役割からの脱却」を経て、「離れることでできる大人の親子関係」という2つめの等至点を生成した。3つめは、「離れて暮らす」以降は、「手伝いたい気持ちを自制する」「他者に任すべきと確信する」という意識を生成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初16名を予定していたインタビュー調査であるが、8名のインタビューにとどまった。現場職員から推薦された研究協力者候補のうち、インタビューまで実施できたのは半数以下であった。その理由の中核をなしたのは、「お世話になっている施設職員には話しができても、会ったこともない大学教員にこれまでの辛い気持ちを話す気には到底なれない」であった。統合失調症の子どもと離れて暮らしている親が少ないことと、尚かつ「離れて暮らして以降も情緒的交流のある母親」と研究協力者を限定したことから、研究協力者の推薦には限りがあった。 TEMの第一人者であるサトウタツヤ先生から、TEMでの研究協力者の人数について指導いただいた。研究協力者数「1・4・9・16」という経験則により、4±1人では、「誰もが経験すること」としての必須通過点を見いだすことが容易となり、9±2人(つまり7~11人)では、径路の類型化が見えてくる。16±3人(つまり13~19人)の場合、径路の類型を超えた世界に到達する可能性がある。したがって、本研究で明らかにしようとしている径路の類型化については、研究協力者数8人で可能であると判断した。 現在のところ、研究実績の概要で述べたとおり、3名の個別のTEM図とストーリーラインの作成及び統合版のTEM図とストーリーラインまで作成している。ここまでを論文化し、福祉教育開発センター紀要第12号に論文名「離れて暮らすことを選択した精神障害者家族の意識変容プロセス-予備調査3名のTEM分析から」として投稿した。今後は、他の5名の個別のTEM図及びストーリーラインを作成するとともに、8名の統合版のTEM図を作成し、世帯を分けて暮らすことを実行した母親の径路の類型化を明示し、ストーリーラインを作成する予定である。概ね8割程度の達成状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度研究「子離れを決意した精神障害者家族の意識変容プロセス-精神障害を子どもに持つ母親へのインタビュー調査から-」の残り5名のデータ分析を進め、8名の統合版のTEM図を作成し、世帯を分けて暮らすことを実行した母親の径路の類型化を明示し、ストーリーラインを作成する。 平成27年度研究「親離れを決意した精神障害者の意識変容プロセス-親世帯から独立した精神障害者へのインタビュー調査から-」を進めるべく、学内の「人を対象とする研究倫理審査委員会」への研究計画を申請するとともに、研究協力者の推薦を現場職員に依頼し、インタビュー、逐語録の作成、データ分析を行い、論文化に向けて取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下3つの理由による。ひとつは、当初16名を予定していたインタビュー調査であるが、8名にとどまり、研究協力者への謝金が予定していた金額より少額となった。そのことについては、【現在までの達成度】の詳述したとおり、TEM研究の第一人者であるサトウタツヤ先生より、8名の対象者から径路の類型化の仮説生成は可能と指導いただいている。2つめの理由は、インタビューの会場使用料が、公民館等の比較的安価な場所を確保することができ、安価に抑えることができたためである。3つめの理由は、研究協力者へのインタビューが初回のみで、今年度複数回目のインタビューを予定している方が数名おられるためである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度実施する研究「親離れを決意した精神障害当事者の意識変容プロセス-親世帯から独立した精神障害者へのインタビュー調査から-」に加えて、理由欄に記載したとおり、前年度研究を精緻化していくために、昨年度インタビューを実施した研究協力者への再インタビューを実施する予定である。そのインタビューに伴う、会場費、旅費、テープ起こし代として使用する予定である。
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