研究課題/領域番号 |
26380807
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
加美 嘉史 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (20340474)
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研究分担者 |
中野 加奈子 大谷大学, 文学部, 講師 (30726047)
小池 隆生 専修大学, 経済学部, 准教授 (40404826)
鈴木 忠義 長野大学, 社会福祉学部, 准教授 (60440195)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 貧困化 / シェルター / 若者 / ホームレス / 一時生活支援事業 / 家庭崩壊 / 精神疾患・精神障害 / 生活保護 |
研究実績の概要 |
平成26年度は京都市が実施するシェルター事業(緊急一時宿泊事業)利用者597名(実人員)のケース記録から住居を喪失した生活困窮者の実態分析を行った。本年度は特に40歳未満の若年利用者146名に焦点をあて分析を行ったところ以下のような特徴が明らかとなった。 1.成育歴的特徴:若年利用者のうち子ども時代に「親の離婚経験あり」は30.1%、子ども時代に親又は本人が収監(刑務所・拘置所・少年院等)された経験のある者は19.9%、「被虐待・ネグレクト経験あり」と記載されていた者は8.9%であった。最終学歴では中卒・高校中退が43.8%を占めていた。 2.就労・生活状況:若年利用者の場合、職業を転々としている者が多く、「シェルター入所直前職」には「正規雇用」は10.5%に減少し、非正規化が進む傾向が見られた。シェルター利用直前の居住形態については「路上生活」が30.1%で、40歳以上の利用者に比べ少ない反面、「ネットカフェ・ファーストフード店等」が23.3%で多いという特徴があった。また、若年利用者の健康状態では、精神疾患・精神障がいの症状の訴えのある者が35.6%を占め、40歳以上の利用者に比べ精神的症状・障がいのある者が多かった。親との関係は「音信不通」が48.6%を占め、親子関係は断絶しているケースが多く見られた。 若年利用者のケース記録の分析から、家庭崩壊や貧困の世代間連鎖といった成育歴、精神的な不安定さなど健康問題を抱えた生活困窮者が多いという実態が浮かび上がってきた。シェルター利用に至るまでには不安定な労働環境での就労を経験し、経済的困窮に加え、家庭環境や精神疾患の悪化といった問題の重層化によって住居の喪失に至るケースが多いと考えられる。なお、これら研究成果の一部は「京都市における緊急一時宿泊事業利用者の実態」(『貧困研究』第12号,明石書店)などの論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究における主な目的はシェルター利用者の生活実態を明らかにし、住居を喪失した生活困窮者の形成過程と生活課題を明らかにすることにある。そのため本研究では主にシェルター利用者のケース記録の分析およびインタビュー調査等を行うことを計画した。 平成26年度の研究実施計画では、京都市のシェルター事業(緊急一時宿泊事業)利用者のケース記録から成育歴、家庭環境、就労状況、居住状況、障害・疾病状況などのデータを抽出し、住居喪失に至る貧困化の過程および利用者の生活課題に関する統計的分析を行うことを計画した。このシェルター事業利用者のケース記録の分析については、当初の計画通り遂行することができた。そして、これまでの分析によって明らかにできたシェルター利用者の実態と生活課題については論文、学会報告等に発表することができた。 但し、シェルター利用者のケース記録に記載されたデータは膨大な量にのぼっているため、これまでの分析においてまだ分析できていない点や分析が不十分といえる研究課題が明らかとなった。そのため平成27年度についてもケース記録のデータ分析を継続して行う必要性がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の主な研究課題は、1.前年度から取り組んでいるシェルター利用者のケース記録の分析において残された研究課題についての検討と分析を行うこと、2.新たにシェルター退所者へのインタビュー調査を行う、という2点である。前者の研究課題についてはすでに述べた通りだが、後者のシェルター退所者へのインタビュー調査については以下のように進めていく計画である。 シェルター退所者インタビューは、1)出身家庭の家庭環境などの成育歴、2)生活困窮に陥る経過、3)入所前の支援とシェルターでの支援、4)退所後の生活状況について、当事者の語りから生活困窮者の生活史と支援課題を明らかにしていく。ケース記録の分析結果を参考にインタビュー対象者を抽出し、承諾を得た約20人に対しインタビューを実施する予定である。 インタビューは最終的に40人に対し行う予定だが、不安定な生活環境の退所者も少なくないため、協力を得られる対象者は多くないと予想される。そのため研究計画を一部変更し、インタビューについては平成28年度も継続して行う計画である。 平成27年度はインタビューに加え、シェルター退所者の生活状況を把握するための「シェルター退所者追跡調査(アンケート)」を行う計画であった。しかし、シェルター退所後、訪問相談員(現在は自立相談支援事業の相談支援員)との関係が途絶えたり、転居等で居所が不明になった者も多く、アンケート等への協力は期待できないケースが相当数に上ることが明らかとなった。そのため退所者アンケートについては当初予定より規模を縮小し、退所者の中から訪問相談員との関係が維持されている者を抽出し、実施する方法に変更して行う計画である。 なお、平成28年度はこれまでの調査結果の総合的考察を行うとともに、各地の「一時生活支援事業」の状況についての調査を開始する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、概ね研究計画に従って予算を執行することができたが、分担研究者との打ち合わせ・研究会の開催については日程調整の都合から、当初計画していた年3回から年2回の実施になった。そのため主に分担研究者の直接経費において残高が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に生じた次年度使用金については分担研究者との調整のうえ、平成27年度の主な研究課題であるシェルター退所者へのインタビュー調査に関する経費(テープ起こし費用等)として使用する計画である。
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